ダウンタウンが「音楽業界」にも強い影響を与えたワケ…浜田雅功は“ミュージシャン”として空前の大成功

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2025年03月15日 09:20  女子SPA!

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女子SPA!

(画像:浜田雅功の旅日記 Instagramより)
 浜田雅功が体調不良により休養することを発表しました。

 いまも多数のレギュラー番組を抱え、お笑い界の頂点に君臨してきたダウンタウンがコンビ揃って不在という事態に、世間も驚いています。

◆ダウンタウン最盛期と日本の音楽産業のピークは同時期

 松本人志の活動休止後、ダウンタウンについては様々な意見が飛び交っています。お笑いに革命をもたらした斬新な発想を褒め称える声があがる一方で、コンプライアンスや道徳から批判する声も少なくありません。いずれにせよ、彼らがテレビに与えた影響の大きさがうかがえます。

 しかし、今回はお笑いを離れて、音楽への貢献にクローズアップしたいと思います。ダウンタウンの最盛期と日本の音楽産業のピークはほぼ同時期であり、『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』(フジテレビ)や、浜田雅功の一連の歌手活動が、その盛り上がりに一役買っていたからです。

 ダウンタウンがいなかったら、日本のCDバブルはもっと規模が小さく終わっていたでしょう。

 改めて、ダウンタウンは日本の音楽シーンに何をもたらしたのか?

◆『HEY!HEY!HEY!』高い音楽性を誇る人ほど話も面白い

 まず、『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』では、音楽ファン以外の視聴者を獲得することができました。ダウンタウンのトークで笑える保証があるので、音楽に興味がなくても番組を見る習慣ができた。そうやって日常的に音楽に接するライト層の裾野が広がっていったわけです。

 この番組でのダウンタウンはミュージシャンの意外な一面を引き出しました。松本の突拍子もないボケや、浜田の煽(あお)るようなツッコミから、ミュージシャンの想定外の反応が生まれる。動物に向かって「こっちに来いよ」と呼びかけたエピソードを披露した佐野元春とのやり取りは忘れがたいシーンです。

 こうした即興性、アドリブの応酬は、よくよく考えれば音楽的であり、実はどれだけトークを展開できるかが、そのままミュージシャンの力量とイコールであった点は見逃せません。ヒット曲を多く持っていたり、高い音楽性を誇る人たちほど、話も面白かった。そこをダウンタウンも見抜いて、トークの難度を高めていき、ミュージシャンの側も応戦していく。

 この笑いを媒介にしたトークによるジャムセッションが、『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』の独特の緊張感を生んでいたのです。そして、世間の話題の中心に音楽がある状況を作っていったことが、平成中期のCDが売れまくる環境に大きく寄与したことは言うまでもありません。

◆音楽鑑賞する文化は作れなかった

 しかしながら、ダウンタウンの論法には負の側面もありました。トークが独自のお笑いセンスというフィールドに固定されていたために、ミュージシャンの音楽的なバックグラウンドにまで視聴者の興味を向けることができなかったからです。

 これはひとえに、ダウンタウンの二人に他者への関心や、自分の知識や理解を超えたものを知ろうとする教養へのあこがれに欠けていたためです。あくまでも当時のテレビを支配していたダウンタウン的な笑いでポイントを重ねていくことこそが、世間一般が音楽と触れる窓口にならざるを得なかった。

 つまり、ダウンタウンは音楽を売る状況は作ったけれども、日常的に鑑賞する文化は作れなかった、ということですね。

 ともあれ、それはダウンタウンだけの責任ではありません。むしろ、今後トークのジャムセッションをできる芸人やミュージシャンが現れるかどうかの方が、はるかに大きな課題となるでしょう。それは現状の音楽番組を見れば、火を見るより明らかです。

◆浜田の姿勢が小室哲哉からフォーク的な作風を引き出した

 もうひとつ忘れてはならないのが、浜田雅功の歌手活動です。なかでも小室哲哉による「WOW WAR TONIGHT〜時には起こせよムーブメント〜」と「GOING GOING HOME」は、当時ダンスミュージックを先導していた作者がフォーク的な素地をあらわにした、興味深いコラボです。

 H Jungle with tのアーティスト名で流行のビート「ジャングル」を一躍お茶の間に広めましたが、曲自体は、歌詞が伝わるポップソングでした。小室哲哉に批判的だった松山千春も、「WOW WAR TONIGHT」を褒めていました。それぐらい王道を行く曲だったのですね。

 続く「GOING GOING HOME」は、いわゆるtkサウンド、そして歌手、浜田雅功の両者において、ベストワークと呼べるのではないでしょうか。「WOW WAR TONIGHT」ほどの強いメッセージはありませんが、音楽の軽やかさや艶がありました。浜田、小室の両者のリラックスしたムードが、曲によくあらわれています。

 この肩の力の抜けた感じが音楽っぽい。お笑い芸人が話題作りのために歌うのではないと力みかえるよりも、むしろ真剣さが伝わる。この浜田の姿勢が、作曲家から違った作風を引き出したのではないかと感じます。

 これもまた、音楽市場が活気に満ちていた時代の証として記憶されていくことでしょう。

◆ダウンタウンがいなかったら平成の音楽シーンは…

 近年賛否両論が起こっているダウンタウンの芸風ですが、彼らがいなければ平成の音楽シーンはもっと違ったものになっていたことは確かです。

<文/石黒隆之>

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4

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