【ライススティック炒】ディープな雰囲気ながら日常的に通いたくなる絶品中華料理店、吉祥寺「中華街」のいちおしメニュー:パリッコ『今週のハマりメシ』第187回

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2025年05月23日 11:50  週プレNEWS

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吉祥寺「中華街」のライススティック炒

ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

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* * *

酒場ライターという仕事をしている自分が、文章を書くうえで意識していることのひとつに、「コスパ」という言葉を使わないというのがある。

個人的に飲食店に強い魅力を感じる部分が、美味しさやお得さよりも、その店自体の味わい深さだったり、店主や店員さんの人柄だったりして、そんな世界にハマればハマるほどに楽しくてしょうがないからだ。が、妻は違う。外食をする際にはできれば美味しいものを食べたいというタイプで、というか、そっちのほうがどう考えても正常であり、単に僕が異常なのだ。

ただ、僕も美味しいものが嫌いなわけではない(飲食関係の連載とは思えない発言)。先日も用事で妻と吉祥寺に出かけ、少し遅めの昼食を食べて帰ろうということになった。そういう場合、さすがに僕も「さて、なるべく怪しげな飲食店を探しますか」とはならない。それに妻は、たいてい行く先の街に、行きたい飲食店リストをいくつか持っていたりする。そこで候補を聞き、その時のおたがいの気分にも合っていて、行ってみようとなったのが「中華街」という中華料理店だった。


わかりやすくはあるけれど、なかなか店名につける発想が浮かばない、中華街という名前がいい。中国人のご主人が営む個人経営の小さな店で、営業は午前11時から、なんと通しで翌朝8時まで。

入店して席に案内してもらい、目の前の箸袋を見て確信した。ここ、僕もだいぶ好きなタイプの店だ! というのも、箸袋にそんなこと書く? っていう、メッセージのクセがだいぶ強かったので。


老酒=紹興酒
旨い飲み方:常温、冷や又はロック
決して砂糖を溶かす為に温めて飲む酒ではない!

紹興酒に砂糖を入れて飲むという文化に対し一家言あることは間違いなさそうだが、オリジナルデザインと思われる箸袋に書くとはよっぽどのことだ。あぁ、いい店に来られたな。


メニューもとても魅力的で、料理が幅広く、驚くほど安い。冒頭でコスパ云々という話をしておきながらなんだけど、料理がお手頃なことが嬉しくないわけがない(めんどくさい男ですみません)。今どき、「ラーメン・炒飯セット」が税込660円はすごすぎる。

ランチ以外のグランドメニューも膨大で、各料理に律儀に添えられたコメントがまた、読みごたえあって楽しい。


特に前菜ページの充実ぶりがたまらなく、ついちょい飲みモードスイッチが入ってしまった。まずは「キャベツ甘辛漬」(330円)「味付け玉子」(330円)と、「レモンハイ」(350円)からスタートだ。


午後1時を過ぎていたが店にはひっきりなしに人が訪れている。厨房ではひたすら店主が料理を作り、フロアを担当する女性も忙しそうだ。なので、注文を取りにきてもらうまではひと苦労したけれど、頼んだものが出てくるのは驚くほど早い。ご主人、相当な達人だな。


かなりダイナミックなサイズに切られたキャベツの、ザクザクとした食感がいい。日本の漬けものにはないしっかりとした甘酸っぱさと、じわじわくる辛味がレモンサワーにばっちりだ。


さらに味玉。これが逸品すぎて驚いた。とろりとまろやかな黄身と、ぷりぷりの白身。そこに浸透した醤油味と旨味。なにもかもが絶妙すぎるのだ。単に醤油漬けにしただけでなく、ほのかに肉っぽい香りがある気もするから、たとえば豚肉料理と一緒に煮込んでいるとか? いや、それだともっと煮玉子っぽくなっちゃうだろうし......とにかくこの味玉、また食べに来たいくらいの絶品だ。この2皿がどちらも330円とは信じがたい。

食事系は、どういうものかわからないけれどメニューで妙に推されていた「ライススティック炒」(990円)と、「蟹肉炒飯(アンカケ)」(1200円)の2品を頼んでみた。それぞれの説明がおもしろいので、ちょっと長いけどここに記しておこう。

「ライススティック炒」
牛肉もたっぷり、ボリューム満点。でもぺろりと食べられる。そんな魔法みたいな1品。もっと売れてほしい。絶対に後悔させないうまさ。あと1品に是非。迷ったらこれを頼みましょう。この一品で屋台からビルオーナーに変身した人がいた。

「蟹肉炒飯(アンカケ)」
これを食べて育った息子が社会人になりました。一番美味しいそうです。

なんというか、うん。そうなんですね。


そしてやってきた蟹肉炒飯。これがやっぱりうまい! パラパラのチャーハンと、卵白を使ったと思われるふわとろの餡(あん)。その間に生のレタスが挟まれていて、三者三様の食感のバランスが抜群。ところどころに見えるかに肉が嬉しい餡の味がほんのり濃いめで、それがあっさりチャーハンとものすごくマッチしている。なんて幸せな料理なんだ。


続いてやってきたライススティック炒。まずは濃い茶色主体のビジュアルに有無を言わさぬ説得力がある。

見た目はタイ料理のパッタイに似ている? と思いつつ食べてみると、むちむち、もちもちとした食感の麺がなんとも素朴な美味しさだ。シャキシャキのニラもやし、柔らかい牛肉と一緒に食べていると、どんどんクセになってくる。

ちなみにライススティックとは、ベトナム料理でおなじみのフォーに使われる麺のことらしい。なんとなくベトナム独自の食材だと思ってしまっていたが、中国でも「河粉」と呼ばれて親しまれ、特にその炒めもの「炒河粉」は定番のひとつだそう。


中華街のどの料理にも共通するのが、派手な旨味とか香辛料に頼り過ぎていない、ほっとする味わい。でありながら、謎の深みがじんわりと心に沁みて、何度でも食べにきたくなってしまう中毒性がある。


大満足で家に帰る道すがら、スマホでなにげなく調べてみたら、中華街には名物裏メニューが存在するらしい。それが、絶品だった味玉がチャーハンの上にたっぷりとのった「味玉炒飯」。ただ写真を見るかぎり、玉子が6個ぶんはのっている。ふたりで3個でもじゅうぶんすぎたことを考えると、やりすぎだ。けど、複数人で飲みにいった際などのつまみとしては相当に酒がはかどると想像され、じっくりと飲みにいきたい課題店がまたひとつ増えてしまった。

取材・文・撮影/パリッコ

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