限定公開( 8 )

AIによる画像生成は、著作権やディープフェイクなど多くの問題をはらみつつも、着実に我々の生活の中に浸透しつつある。特にネットでは、広告やショートドラマなどのコンテンツにおいて、「どうもAI臭い」という画像や動画が多くなっている。
個人の趣味としては、生成AIを使ってフルの動画作品を作るには、課金コストがかかりすぎる。一方プロの映像制作では、俳優やスタッフの人件費、スタジオセット費、ロケ費用から考えれば、生成AIに課金したほうが全然安いという状況になっている。
そんな中、生成AIを使って制作した広告は、それがAIであることで何かしら影響を与えるのだろうか。2025年12月に、視聴率調査で知られるビデオリサーチ内のシンクタンク「ひと研究所」が、そうした調査を行った。
今回はその結果を見ながら、生成AIが作り出す画像と、それを見た人間の反応や行動がどのように変わるのかを掘り下げてみたい。
|
|
|
|
●人は生成AI画像を見分けられるのか
この検証では、ファストフード、ミネラルウォーター、旅行の3つの商品カテゴリーで、実写広告とAI画像広告の2つを作成。実写広告はフリー素材の写真にキャッチコピーなどを入れて広告として仕上げたもの、AI画像広告は同じフリー素材を読み込ませて画像を生成させたものとなっている。キャッチコピーやロゴなどは、同じものを入れてある。
人は、見た目だけでAIで生成されたものであるかを見抜けるのか。最初のテストは、この6つの画像をランダムに見せ、その広告効果とクリエイティブ評価を聴取した。次に、提示された広告は「実写とAIをランダムに表示したものである」ことを説明し、自分が見たものが実写なのかAIなのかを判断してもらった。
AI広告を見てそれがAIだと当てた人は6割弱から7割となっており、ある程度はAI画像を見分けられているように見える。しかし実写広告を見たのに、それをAIだと誤認した人も5割弱から7割という結果となった。 ただこれは、AI画像なのかもしれないという情報が与えられたことで認知にバイアスがかかり、実写であってもAIっぽく見えるようになったという可能性を否定できない。
では、AI画像を正しく見分けられた人は、どのような要素を基準に判断したのだろうか。まずファストフードやミネラルウォーターのように「人物」や「商品」がメインとなる広告では、
|
|
|
|
・人物の肌や質感
・表情や目の不自然さ
・背景の構造
・背景の色味・質感
といった要素を基準に判断していた。一方旅行のように背景を含む全体のイメージがメインとなる広告では、
|
|
|
|
・背景の構造
・背景の色味や質感
・画像全体の色味
を基準に判断していた。これは広告として注視すべきポイントにきちんとフォーカスしているという意味でもある。
ただどちらのパターンでも見逃せないのが、「なんとなくおかしい」という、理由のない直感的な判断がおよそ4割で最多であったところである。つまり「AIなのかも」という判断基準は、画像内の矛盾点を探し出した結果ではなく、「違和感頼み」ということになる。
問題は、AIかもしれないという疑問を与えなければ、この果たして違和感は発動したのか、という点だ。おそらく何の説明もせずにAI広告を見せたら、AIだと見破った人は少なかったはずである。正直筆者にも、このサンプルでAI画像を見破れる自信はない。
現に我々が今現在見ている広告には、「AIで生成しました」のようなクレジットはほとんど入っていない。そもそも何のバイアスもなければ、AIかどうかを見分けようともしなかったはずだ。
バイアスをかければ、実写広告を見た人でもAI画像かもしれないと疑うわけだから、AIであるかどうかの判断には、現時点では認知バイアスが非常に大きなトリガーになっていると考えられる。調査では「生活者は実写広告とAI画像広告の見分けが必ずしもついていない」としているが、それはバイアスの有無次第であり、その点でこの調査の結論には論理の飛躍がある。もしかしてAIに分析させましたかね?
むしろほとんどの生活者は、AIかどうかを見分けようとしていないのではないだろうか。他人からこれAIじゃないの、と言われて、ああそうかも、と思う程度であろう。
●AIであることは、広告に影響するのか
続いて、AIで制作されたコンテンツであることは、広告効果にどのような影響を与えるのだろうか。
調査では、
・AI画像広告でAI画像広告だと認識されること
・実写広告でAI画像広告だと誤認されること
いずれの場合も例外なく「購入・利用喚起」のスコアが低下した。本当は実写であっても、AI画像だと誤認されることでもスコアが低下するわけである。
ではなぜAIだと分かると、広告効果が低下するのか。「生成AIを広告クリエイティブ制作に用いることに対する生活者の評価」という調査では、「同じような広告ばかりになりそう」という、無個性化を懸念する声が最多であった。人の興味を引くのはこれまでにないものであり、個性とは人間などの有機体が持つ特性である。
先進的だというポジティブ評価がそれに続くが、著作権や倫理面を心配する声もある。また人間らしさが失われる、手を抜いている、品質や信頼性に不安があるといった声もある。
ここから言えるのは、広告は人間がアイデアを出して手間をかけて制作しないと、「いかにもAI」な量産広告は効果が下がるということである。現在AI広告をクリエイティブとして販売している広告代理店は多いと思われるが、クライアントは本当に費用相当の広告効果があったのか、きちんと調べるべきだろう。
一方で、本当に人間が作っている広告にも課題が出てきた。「AIっぽく見えない広告」を作らなければならなくなったのである。このためには「実写広告をAIだと誤認した人の判断理由」が知りたいところだ。この点をビデオリサーチに問い合わせたところ、そこは今回の調査対象外であったため、データがないという。実に惜しい。後続の調査を待ちたい。
●AIクリエイティブの可能性と限界
今回の調査は、静止画におけるクリエイティブの話である。一方で現代の広告は、WEBを中心に動画広告へと傾いている。既に動画広告はAIを使って制作されるものも出てきており、我々も広告の一環として目にし始めているところだ。
AI制作の動画は、静止画よりはAIであることが発見しやすい。実写動画は連続性と一貫性が保証されているものであり、1カットの途中で物が消えたり、動き方が重力に逆らったりしていれば、それはAIだろうと想像が付くわけである。そうした動画を見るたびに、我々は本物ではないと判断し、本当にあった出来事ではないと確信する。
ただそれは、信憑性が求められるコンテンツである場合だ。例えばSFものや災害ものなどの映画・ドラマ作品は、最初からフィクションであると分かっているコンテンツであり、それが何で作られたかは問題にしない。実写やアニメの中に3DCGが入ってきても受け入れられてきたように、AI生成は表現手法として受け止められるジャンルは存在するだろう。
しかし広告の場合は、表現されているものが事実でないと困る。実際に販売されるものよりも過剰によく見えるのであれば、景品表示法における優良誤認表示に問われる可能性も出てくる。AI広告がそのラインを守らず無法地帯となるのであれば、AI広告であるということだけで商品価値が毀損(きそん)される可能性もある。
クライアントとしては、AIで制作するなとリクエストするだろう。だが全て実写撮影で人が全て制作すれば、コストがかかる。制作費圧縮のために、クライアントに黙ってAIを使う制作会社や制作者も出てくるだろう。制作側はAIを使っていないという証拠が必要になるが、それは果たして可能だろうか。
問題は、すでに映像制作ツールの中にAIが入り込んでしまっていて、AIを使わないでいることが難しいことである。どの部分までAIを使うことが許されるのかといった線引きをしても、そのラインでクライアントを説得できるかどうかは分からない。
AIを使う理由は、制作費の圧縮はもちろんあるのだが、第一の理由は「実写よりきれいにできて、コントロール可能」だからだ。広告特有のキラキラ感のある映像は、何度もテストして撮影されたものであり、複数素材の合成やカラーグレーディングなどの加工をしなければならない。それでも実写ゆえに、できることに限界がある。後から逆アングルがよかった、などと言われてもどうにもならない。
生成AI画像が広告価値を毀損するという調査結果は、広告業界にある種の爆弾を投げつけたに等しい。これをきっかけに、実写であることを主張したいクライアントも出てくるだろう。広告に「これは実写です」といったテロップを出さなければならなくなる日が来る可能性もある。
少なくとも広告は、消費者の信用に足るものでなければならない。多くのメディアをはじめとするネットビジネスが広告モデルで回っている以上、この前提は避けて通れない。
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。

スマホのシャッター音に不満の声(写真:ITmedia Mobile)265

スマホのシャッター音に不満の声(写真:ITmedia Mobile)265