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最近「独身税」という言葉をよく見かけるようになりました。「一人暮らしの人へさらに税金がかかるの?」といった不安の声も上がっています。しかし、実際に「独身税」という税金が導入されるわけではありません。
背景にあるのは、2026年4月から導入される「子ども・子育て支援金制度」です。この制度では、結婚しているか、子どもがいるかどうかに関係なく、社会保険料に上乗せされる形で新たな負担が生じます。
2023年5月に初めてこの制度が検討されていると報じられた際に、SNSを中心に「独身税」という言葉が使われ始めたようです。23年10月には、岸田政権の増税をめぐる報道とともに注目を集め、「独身税」の議論が盛り上がりました。支援策の財源を社会保険料支払いに求めたところが、国民に驚きをもって受け止められた結果と見ています。
では「子ども・子育て支援金制度」とはどのような仕組みなのでしょうか。問題があると指摘する専門家もいますが、何が問題なのでしょう? 負担額や問題点について詳しく解説します。
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2026年から毎月の負担はいくら増える?
「子ども・子育て支援金制度」は、少子化対策に必要なお金を確保するために、2026年度から導入される仕組みです。集められた支援金は、児童手当や保育支援、育児休業給付の拡充・充実などに使われる予定です。
制度の開始は2026年4月で、支払うお金は公的医療の保険料に上乗せされる形で集めることになります。支払うことになる支援金の目安としては、
・2026年度は250円(月あたり、1人ごと)
・2027年度は350円(月あたり、1人ごと)
・2028年度に450円(月あたり、1人ごと)
ほどになると見込まれています。ただし、実際の負担額は、加入している保険制度や収入によって異なります。
対象となるのは、公的医療保険に加入している全ての人です。つまり、独身の人たちだけではなく、既婚者や子育て中の人、高齢者もみんな支援金を支払うことになるのです。
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この制度は独身の人にだけ負担を強いる「独身税」ではなく、社会全体で子どもを育てやすい社会をつくるための制度と言えます。
なぜ「子ども・子育て支援金制度」が必要なのか? 背景と課題
政府は2024年以降、「異次元の少子化対策」として児童手当や育児休業給付をより充実させ、多くの人が利用できるようにしてきました。「子ども・子育て支援金制度」は、こうした支援策を継続的に実施するための財源として位置づけられています。
しかしこの制度に対して、問題があるとの批判もあります。
「医療保険のために支払っている保険料なのに、子育て支援に使われるのはおかしい」という声があります。支払うべき負担金が、医療保険料に上乗せする形となるためです。本来、社会保険は「負担と給付が直接結びつく」しくみですが、今回の制度はその考え方にそぐわない面があるといえます。
負担の公平性の面でも課題が残ります。所得が高くなるほど負担額が増える傾向があるものの、「低所得者層への負担軽減が不十分では?」との指摘もあります。さらに、事業者側の負担がどの程度増えるのかも、今後の焦点となるでしょう。
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さらに、独身者や若年世代への出産・育児への影響も懸念があります。負担増によって、結婚や出産をためらう人が増えてしまう可能性があるためです。少子化対策の財源を社会全体で支えるのは理解できる一方で、出産・育児を妨げる影響はないかも、今後議論されることになりそうです。
子育て支援は社会全体で取り組むべきテーマです。その財源をどのように確保するかについては、できる限りエビデンスにもとづき、議論を続けるべきでしょう。
「独身税」という誤解を広めるのではなく、どのように支え合うべきかを冷静に議論することが求められています。
【参考】
▽読売新聞オンライン「少子化対策で「こども特例公債」発行へ…財源確保まで不足分を穴埋め」
▽子ども家庭庁「子ども・子育て支援金制度における給付と拠出の試算について」
▽柳瀬 翔央「子ども・子育て支援金制度の創設をめぐる議論−子ども・子育て支援法等改正案の国会論議(2)−」
◆新居 理有(あらい・りある)龍谷大学経済学部准教授 1982年生まれ。京都大学にて博士(経済学)を修得。2011年から複数の大学に勤め、2023年から現職。主な専門分野はマクロ経済学や財政政策。大学教員として経済学の研究・教育に携わる一方で、ライターとして経済分野を中心に記事を執筆している。