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日本は1960年代に庶民にクルマが普及するモータリゼーションが訪れました。それから現在まで約60年の月日が流れています。しかし、欧米の自動車の歴史は、日本よりも、はるかに長いものです。歴史に名高い、フォードの「モデルT(いわゆるT型フォード)」が、米国で大ヒットしたのは100年も前のこと。欧州では、メルセデス・ベンツやプジョー、ルノー、フィアットなどが、それよりも前からクルマを生産していました。
欧米は、日本に倍する自動車の歴史を持っているのです。
また、日本は昔から、ひとつのものが大きく流行りやすい国と言えるでしょう。クルマに関しても、新しいモノが大ヒットしやすく、さまざまなブームが生まれています。
それに対して、欧米は、かなり保守的で、同じようなクルマが、長いあいだ売れ続けています。例えば、米国で言えば、最も数多く売れるクルマは、過去数十年にわたって変化はありません。それは、フルサイズピックアップと呼ばれるクルマであり、フォードのFシリーズとなります。なんと、Fシリーズは、40年以上にわたって、米国のベストセラーカーの座を守り続けているのです。
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また、SUVの人気も高く、3列シートのSUVは子育て世代やファミリー層御用達のモデルとなっています。そのため米国市場において、SUVとピックアップトラックなどを含んだ小型トラックのシェアは非常に高く、全体の8割近くを占めています。ある意味、ここまでトラック系のシェアの高い先進国は他にありません。
ちなみに米国における日本メーカーのシェアも、非常に高いものとなっています。2023年の実績で言えば、シェアナンバー1こそGM(16.5%)となりますが、それに続く2位がトヨタ(14.4%)で、3位フォード(12.7%)、4位ステランティス(9.8%)、5位ホンダ(8.4%)、6位日産(5.8%)となります。GM、フォード、クライスラー(現・ステランティス)という元ビッグ3に、トヨタが割って入り、それにホンダと日産が続いているのです。
欧州も長いクルマの歴史を持っています。そのため日本とも米国とも異なった特徴があります。まず、欧州各地にある都市は、どこも古く街並みの多くは石造りです。木をメインに家を作り、スクラップ&ビルドを繰り返す日本と異なり、100年も200年も前の建物や建造物が、欧州の都市には残っているのです。
そのため、長い歴史を誇る街ほど、道は狭く、クネクネとうねるように走ります。荒野にまっすぐな道をひいて街を作った米国とは、まったく作りが違います。
そんな街の多い欧州では、昔から小さなクルマが売れています。もちろんセダンも販売されていましたが、ベストセラーになるのは小さなハッチバックです。
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ドイツにはメルセデス・ベンツやBMW、英国にはロールスロイスといった伝統を誇る高級ブランドがありますが、数を売るのはフォルクスワーゲン、ルノー、プジョー、シトロエン、フィアットといったドイツやフランス、イタリアの大衆車メーカーでした。そうした大衆ブランドの小さなハッチバック車がベストセラーを競っていたのです。
そうした大衆車メーカーでは、小さいハッチバック、もう少し大きなハッチバック、そしてミドルクラスのセダンとステーションワゴンというのが典型的なラインアップとなっていたのです。
こうした状況が欧州では長く続きます。1990年代に日本で街乗りSUVや乗用車ベースのミニバンが生まれていましたが、欧州では、そうしたモデルは作られませんでした。
それでも2000年代に入ってから、世界的なSUVブームが発生します。それに対応するかのように、フォルクスワーゲンは2002年に初のSUVとなる「トゥアレグ」をリリース。プジョー初のSUVとなる「3008」の発売は、2009年のことでした。日本のメーカーと比べると、SUVの導入は10年以上も遅れていたのです。
ただし、欧州においてもSUVの人気はゆっくりと、しかし確実に高まっています。小さなハッチバックをベースにした、コンパクトSUVも数多く生まれています。
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現在では、そうしたコンパクトSUVが販売ランキングの上位を占めるようになっています。フォルクスワーゲンであれば「T-ROC」ですし、プジョーなら「2008」、ルノーなら「キャプチャー」が売れ筋となります。
しかし、一方でミニバンは、欧州では、いまだにヒット車となっていません。あくまでも商用バンという立場から脱していません。
日本のように、さっと流行が移り変わるのではなく、ゆっくりと変化してゆくのが米国や欧州というわけです。
※この記事は『自動車ビジネス』(鈴木ケンイチ/クロスメディア・パブリッシング)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。
(鈴木ケンイチ、モータージャーナリスト)
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