「廃虚アウトレット」の乱立、なぜ起こる? 絶好調なモールの裏で、二極化が進むワケ

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2025年05月15日 06:20  ITmedia ビジネスオンライン

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大盛況モールと“ガラガラ”モールの現実

 軽井沢・プリンスショッピングプラザ(以下、軽井沢アウトレット)の2024年度売り上げが過去最高を記録した。売上高は前年から4.4%増の590億円、3年連続で過去最高を更新した。2024年の物価上昇指数が2.5%だったことを踏まえても、その伸びは著しい。


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 軽井沢アウトレットに限らず、国内の大手アウトレットモールは好調が続いている。三菱地所・サイモンが国内10カ所で運営する「プレミアム・アウトレット」も、2024年度のテナント売り上げが過去最高を記録した。さらに、三井不動産が運営する「三井アウトレットパーク」も、複数の施設で増床やリニューアルオープンを積極的に行っている。


 一方で、残酷な現実もある。「廃虚アウトレットモール」とも呼ばれる、いわゆる「デッドモール」の乱立だ。大手が積極的に出店を続ける一方で、中小事業者によるアウトレットモールや、立地で劣勢に立たされたモールの淘汰(とうた)が急速に進んでいる。その結果、ほとんどテナントが入っておらず、異国風の建物だけが悲しくたたずんでいる……という場所が、全国には複数ある。


 本稿では、こうした「二極化」が進むアウトレットモールの現状を、現地の写真とともに紹介したい。


●EC時代に強い「アウトレットモール業態」


 日本ショッピングセンター協会によると、アウトレットモールとは、季節外の商品や難あり商品などの処分を目的とするメーカーの直営店が入るショッピングセンターのことだ。ショッピングモールのディスカウント版といったところだろうか。


 アウトレットモールは広大な土地に多くの店舗を集めているのが特徴で、商圏は広い。また、多くの場合、異国風のデザインで統一されており、単なる商業施設ではなく、リゾート地やテーマパークのようなアミューズメント施設の要素もある。


 一部のアウトレットモールが好調な理由は、買い物にとどまらない体験ができるためだろう。特に小売業では、近年ECの普及により、リアル店舗への客足が落ちつつある。しかし、「体験価値」がメインとなるアウトレットモールは、相対的にECの影響を受けづらい。


 また、さまざまな商品の価格が高騰する中、直営店でありながらより安価に商品を購入できるアウトレットが、国内消費者に魅力的に映っていることも、人気の理由だろう。実際、筆者もよくアウトレットモールに足を運ぶが、有名ブランド品でも「販売価格の40%オフ。さらに、そこから本日限定で20%オフ」……と、何重にも割引になっているのを目にする。


 近年、これに加わっているのがインバウンド観光客である。先に紹介した軽井沢アウトレットでは、2024年度の免税売り上げが8%増の100億円で、全体の約17%を占めているという。また、三井アウトレットパークでも、2008年ごろから海外団体客の誘致に積極的に取り組んでおり、香港拠点のキャセイパシフィック航空の会員プログラム「キャセイ」との連携プログラムも展開している。


 ショッピングセンター全体の数は、2018年をピークに減少し続けているにもかかわらず、アウトレットモールについては新設やリニューアルオープン、増床などが続いている。2019年以降、新設や増設、再開業などが行われた数は19施設と、その好調ぶりが分かる。。


●一方で、「ガラガラ」なアウトレットモールも……


 こう書くと、「アウトレットモールなら何でも勝機がある!」と思われがちだが、実はそうでもない。


 訪れたことがある人ならば分かると思うが、基本的に各モールに入っているテナントは似ている場合が多い。そのため、既存のモールの近くに、より大きなモールや新しいモールができると、そちらに人が流れる傾向がある。つまり、売り上げは立地に左右されやすいのだ。


 軽井沢アウトレットが好調だった理由も、北陸新幹線の延伸に伴う影響が大きいとされており、多くのアウトレットモールが高速道路のIC沿いにあるのも、この立地の問題をクリアするためだ。


 また、前述の通り新しいアウトレットモールの誕生は広範囲のモールに大きな影響を与える。これが、アウトレットモールの「二極化」を起こす原因となっているのだ。


 大阪府岸和田市にある「岸和田カンカンベイサイドモール」(以下、岸和田カンカン)が良い例だ。この西館がアウトレットモールとなっているが、中を見るとテナントがほとんど入っておらず、ガラガラだ。建物は英国の港町を模した雰囲気になっているため非常に豪華なのだが、逆にガラガラ度合いとのギャップが激しく、その豪勢な建物もかえってむなしく映る。


 この施設が誕生したのは1997年。日本初かつ関西初のテナントが多く入居したことで、開業当初は1カ月で120万人の来場者があった。日本ショッピングセンター協会の月刊誌によると、見込みの来場者数は100万人だったため、それを20万人も上回っていたことになる。


 しかし2000年に、岸和田カンカンから車で10分ほどの場所に、「りんくうプレミアム・アウトレット」が誕生。同施設は、アウトレットモールの売り上げランキングでも上位にランクインしていて、関西国際空港から近いこともあり、国内客とインバウンド需要の両方を取り込んでいる。さらに、岸和田カンカンに比べ、広大な店舗面積と豊富なテナント数を誇っている。


 この影響を受けて、岸和田カンカンは大きく衰退。現在では空きテナントが目立つようになっている。


 茨城県大洗町にある「大洗シーサイドステーション」でも、同様の現象が起こっている。ここは2006年に誕生し、かつては「大洗シーサイドモール」というアウトレットモールだった。しかし、2011年の東日本大震災で浸水被害にあい、一時閉鎖。その後再び開業するも、2013年に、千葉県酒々井町に開業した「酒々井プレミアム・アウトレット」の影響を受けて衰退。最終的に運営母体は破産してしまった。現在は運営母体が変わっているものの、テナントは当初の半分以下にまで減っている。


●閉鎖されるアウトレットモールも……


 ここまで紹介した例は、運営母体を変えたり、運営方法を工夫したりして、かろうじて事業を継続している。


 しかし、中にはそのまま営業を停止してしまった例も多くある。


 「大洗リゾートアウトレット」のかつての運営母体「八ヶ岳リゾートアウトレット」は、その名の通り、八ヶ岳地域でもアウトレットモールを展開していた。しかし、大洗と同じように2023年6月に営業を停止。跡地には会員制ホテルが建てられる予定だという。


 他にも、新千歳空港の近くにある「千歳アウトレットモール・レラ」も、新千歳空港内のショッピング施設や、北広島市に誕生した「三井アウトレットパーク 札幌北広島」の存在によって経営不振に陥り、2024年11月に事実上、運営終了となった。現在はわずか4店舗のテナントしか入っていない。


 先ほども述べた通り、基本的には立地と大きさが重要になってくるアウトレットモールでは、必然的に大手デベロッパーにより開発されたモールが優位性を持つ。そんな中、良い立地を確保できなかったモールや中小事業者によるモールは、急速に淘汰(とうた)されているのだ。


 日本ショッピングセンター協会のWebサイトでは、現在のアウトレットモールの数は31施設となっている。 ただ、この数字は「物販テナントが10店舗以上ある」もので、いわば「勝ち組モール」といえるものである。振るわないアウトレットモールには、物販テナントが10店舗に満たないものも多い。そのため、「廃虚アウトレットモール」は、日本のさまざまな場所に、ひっそりとあることが予想される。


 「アウトレットの売上高、過去最高!」といった景気の良いニュースの裏には、多くの「デッドモール」が潜んでいるのである。


(谷頭和希、都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家)



このニュースに関するつぶやき

  • まあ俺にとって興味ないカテゴリの品揃えだしね ホムセンカー用品ハードウェアなんかも入れて男でも興味持てる構成にしついでに汎用性あるディスカウントスーパーなんかも入れればいいのでは
    • イイネ!1
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