限定公開( 1 )

●神棚職人が手がけた推しをまつる祭るステージ
推しキャラやアイドルのアクスタなどを祭るステージとして、さまざまな界隈(かいわい)で定着しているアイテムがある。仏壇仏具や墓石を販売するはせがわ(本社:福岡/東京)の「推し壇」(おしだん)だ。2023年10月の販売開始以来、徳川美術館などとコラボしたり、人気アニメで類似グッズが登場したりと、たびたび話題になっている。
本物の神棚と同じ素材と技法を用いて、国産のヒノキ材で仕上げており、神棚を壁掛けするための壁掛け棚を併用すれば、部屋の一番高い場所に設置できる。壁掛け棚の耐荷重は約14kgで、推し壇の屋根の高さは約21cm〜30cmの範囲で4段階に調整可能だ。
付属のLEDテープを走らせれば、推しのイメージカラーで舞台を染めたり、点滅やグラデーションといったライティング効果を楽しめたりする。
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価格は同社のオンラインストアで9900円(別売オプションの壁掛け棚は5500円)。オンラインストアに加え、同社の一部ショップやECサイトでも取り扱っている。
この推し壇だが、仏壇仏具の専門店からリリースされた商品としては明らかに異質だ。扱い方を誤ればジョークグッズとみなされるリスクがあり、不謹慎とのそしりも受けかねない。現在のように定着させるには、絶妙なバランス感覚が必要だったのではないだろうか。
そしてそのバランス感覚は、追悼や死後の備えといったデリケートな目的と最新テクノロジーを掛け合わせるデステック産業全般に有用である可能性が高い。内実を同社に尋ねた。
●“社内チャレンジ企画”から生まれた
推し壇は、当時入社2年目だった女性社員の発案から生まれた。同社には所属やキャリアを問わず経営陣に商品企画などをプレゼンする“チャレンジ企画”という取り組みがあり、そこで熱い思いをぶつけて採用に至ったという。
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その社員は既に退職しているが、当時のやりとりを企画総務部の小林知世さんはこう振り返る。
「(その社員には)推しがいまして。推しは自分を支えてくれる存在であり、そのアクスタやぬいぐるみなどのグッズを大切に扱いたい思いは、当社の使命である『心の平和と生きる力を実現する』につながるはずだと。亡くなったご家族やご先祖さまのように手を合わせる対象ではないかもしれないけれど、きれいに丁寧に祭りたい。それを支える製品が弊社なら作れるし、作りたいのだと熱弁していました」(小林さん、以下同)
経営陣は50〜60代の男性が中心だ。まずは推しという概念を理解し、界隈におけるアクスタ(アクリルスタンド)の位置付けをつかんでもらうところから始める必要があった。それにもかかわらず、反対意見は出なかった。
「やはり危機感があり、そのためのチャレンジ企画という面もありますから」
同社が、長谷川仏具店として福岡県で創業したのは1929年だ。高度成長期に法人化し、半世紀前に現在の社名に変更した。それから関東や中部地方に進出し、1997年には墓石事業にも本格的に乗り出している。
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現在もM&Aによりグループを拡大して事業を広げているが、同時に供養関連の商品だけでは成長が厳しくなっている現実と長年向き合い続けてもいる。
国内の年間死亡者数は、1980年代から漸増している。その一方で、1990年代頃から葬儀や法要の縮小化が進んでおり、仏間の一面を全て使うような高価で大きな仏壇は敬遠されるようになって久しい。
同社の個人投資家向け説明会の資料でも、宗教用具の市場規模は右肩下がりを続けること、それによって競合他社とのシェア争いが激化する流れがはっきりと予測されている。
従来の事業も大切にしていきたい。けれど、これまでにない何かを育てていかなければ持続的な成長は見込めない。その成長の種の1つが推し壇だったというわけだ。
●世間からの批判も少なめだった
ただ、“新風”を求めるのは会社側の都合でしかない。世間からはある程度の反感や批判が届くことを覚悟していた。しかし、そちらの声も想像よりずっと少なかったという。
「お仏壇や神棚などの文化に対して失礼ではないかというご意見は、確かにいただきました。ただ、全体としては『面白い商品を出しているね』といったように、好意的に受け取ってくださる方が多く、ホッと胸をなで下ろしました。率直にありがたかったです」
リリース直後から注目を集めていたのは冒頭に触れた通りで、売れ行きにしても急きょ増産体制を整える必要が出るほどだったという。推し壇も一部の店舗で陳列しているが、これまでの販売実績の約半数はオンラインショップが占める。購入層の詳細は不明ながら、SNSでの反応を見る限り、これまでの同社の購入層よりずいぶん若い人に響いていると推察される。
仏壇や神棚を求める従来の顧客は50〜60代の男女が中心だ。近隣の店舗を家族で訪ねて品定めするのが通常のパターンとなる。販路も関心を持つ層も異なる可能性が高く、それがミスマッチによる反感を抑えたのかもしれない。
さらに、仏壇仏具のトレンドの変化が追い風となっている可能性もある。
昭和の昔、金物の飾りをふんだんにちりばめた大型の金仏壇を仏間に置く家が多くあった。しかし、平成から令和にかけての売れ筋は、リビングに置けるコンパクトで装飾を控えめにしたモダンなタイプだ。同社の仏壇の売れ行きでは、後者のタイプが8割を占める。
本来の仏壇は各宗派の本尊を祭るものだが、本尊も位牌もなく、故人の遺影と小さな骨つぼだけを置く人も珍しくないそうだ。供養の場ではあるが、必ずしも伝統的な宗教の様式は求めない。そうした世間の意識の変化が経営陣に危機感を抱かせると同時に、推し壇を許容する空気を助けたのかもしれない。
●“宗教離れ”だからこそ可能な宗教利用
推し壇は宗教離れが進む現代だからこそ許容された側面があるが、それでいて伝統宗教のエッセンスはふんだんに利用している。というより、推し活と宗教心をマリアージュさせた商品といえる。
仏壇と推し壇。何が違って、何が共通しているのか。
「共通点といえるのは、自分にとって大切な存在に手を合わせたい、生きる支えになってもらいたいという感情ではないかと思います。違いは大きく3つ。最大の違いは現実の死を伴うか否かです。次に装飾の自由度ですね。最近ではLEDライトを内蔵したお仏壇もありますが、照明の色は白色が一般的です。対して推し壇はカラフルな照明の色や点灯方法などをかなり自由に演出できます。最後は購入層です。弊社にとってもこれまで当社をご利用いただいたことがないお客さまが多く、これまでと違った接点をもつことができました」
推し壇の今後の展開は、3つ目に挙げられた「これまでと違った接点」が鍵になるという。
何しろ、企画を立ち上げた社員はもういない。推し活への理解は社内に広がっているものの、推しの市場で求められるものを作り出すのはまた別の話だ。まだ日の目を見ていない推しの形を同社に投げたら、面白い解答がリリースされるかもしれない。
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