「ありがとうLMDh!」新規参戦歓迎とともに本邦初上陸マシンを観察【2024WEC富士テクニカルウォッチ】

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2024年09月13日 18:00  AUTOSPORT web

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 今季も日本上陸を果たしたWEC世界耐久選手権第7戦『6 HOURS OF FUJI 2024』ということで、やはり気になるのはここ富士で初お目見えとなるハイパーカーたち。ここではヒョンデ(ジェネシス)の新規参戦発表にも沸くLMDh規定モデルを中心に、車両整備と車検が進む木曜の設営日にピットレーンへ繰り出してチェックして参りました。

■BMWに“小鼻”アリ。唯我独尊のランボルギーニ

 まずは『BMW MハイブリッドV8』から。昨季より北米IMSAにデビューしているダラーラ製シャシーのLMDh車両は、DTMドイツ・ツーリングカー選手権で使用された旧V8自然吸気をツインターボ化し、本格ストレスマウントで搭載したことでも話題を集めました。

 ブランドのアイデンティティでもあるキドニーグリルは、昨今の量販モデルにならい(?)大型。しかしその内側にも"小さなキドニー"を発見。両脇はフロントのブレーキ冷却でしょうが、この小鼻はコクピット方面へ向かうのでしょうか。

 その経路も確認できるフロントカウル背面。ストレーキ類はなく、複雑な3D形状のアップスイープ途中にはスリットも設けられ、フォーミュラで言うところのフロントウイングの機能を担います。勢いある気流がフロア面に沿うことでダウンフォース(DF)を生成しますが、小ぶりな2枚目の方はストール(失速)も気になりそうなほど大きな跳ね上げに見えます。


 流れのままにサイドのフロアも観察。上の写真は手前が車両進行方向で、天地が本来の向きに。排気管が来るであろう付近には耐熱シートの処理がしてあります。下の写真は天地を逆さまにし、後方から眺めたもの。

 ディフューザーは跳ね上げも緩やかで、同じくダラーラ製のキャデラックVシリーズ.Rや、オレカ製のアルピーヌA424などを含め絶対的な容量は規定により控えめ。リヤタイヤ後方の引き抜き部分も、機能面を満たしつつデザインの訴求がメイン、という感じ。


 モノコックの構成もキャデラックと原則的に同じ構成。タイロッドはいわゆる前引き(下の写真ではモノコック側のリンクが外れて垂れ下がった状態)で、ロワアームにはフェアリングが施されています。フォーミュラとは異なり、空力面でアッパー、ロワに沿わせる必要もなく、ステアリング特性を優先した位置設定ということでしょう。

 続いて『アルピーヌA424』です。こちらは昨季までのLMP1発展型から、今季より晴れてオレカ製シャシーを採用したLMDhにスイッチしたとのことで、本国ル・マン24時間でも決勝こそトラブルに泣いたものの、予選では競争力のあるスピードを披露しました。

 車幅いっぱいに拡がるLEDライトバーと、パープルに怪しく点滅する複雑な処理のヘッドライトベース部が、ブランド復興の意気込み(?)を感じさせます。

 惜しくもバルクヘッド部を観察することは叶いませんでしたが、基本構成はIMSAに参戦するアキュラ(ARX-06)と同様のはず。カナードの2枚翼は、デビュー当初からステーで支持する方式。全体の洗練された雰囲気とは対照的に、ここだけは古典的とも言えます。


 リヤタイヤ後方は、やはり気流引き抜きの効率よりブランディング優先か。エレガントにすぼまる両サイドのスカートに加え、テールライトの「A」は内側を抜いているのも特徴的。前出のダラーラとは異なり、ディフューザー内部には左右2枚のストレーキも設定しています。ちなみにメカクローム製の3.4リッターV6直噴ターボは、BMWやランボルギーニもかくやの硬質で粒の揃った高周波サウンドを奏でます。

 そして皆さんお待ちかねの『ランボルギーニSC63』です。ポルシェが独占的にマルチマチック製シャシーを使用するのと同じく、このモデルも現状は唯一のリジェ製となります。初年度のル・マン24時間も無事に走破した信頼性も武器です。


 もう、この造形美だけでお腹いっぱいです。ロードカーでも特徴的なソリッドなデザインに、こちらも一眼で「ランボ」と分かるY字型のライトグラフィックの組み合わせ。実車を見ると、フロントタイヤ後方はライバルとも一線を画して「ほぼ何もない」に等しい感もあります。

 こちらもライバル陣営とは異なり"唯我独尊"を貫く部分。デビュー当時の資料にもあるとおり、エンジンや補器類のコンパクト化を優先してVバンクの内側にターボチャージャーを収める"ホットインサイドV"のレイアウトが主流(フェラーリ、ポルシェにアルピーヌも)のなか、クラス1規定の直噴ターボ開発を活用したBMWと同様に、ターボチャージャーがVアングルの外側に来る"コールドV8"構成としています。これにより「冷却、整備性、重量配分の面で最適化されている」と説明されていました。テールパイプ(アクラポヴィッチ製)の位置がわずかに外なのも、そのためでしょう。

 同じく「プッシュロッドとベルハウジングの設計を含め、要求事項を"自由に指定し"開発を進めることができた」と語られたバルクヘッド周り。EPSを採用したステアリングラックや、相対的に低い位置に水平マウントされたコイルオーバー(KW製)などがコンパクトにまとめられています。このアングルだと、ノーズ両脇から取り込むエアの流路にも相応のボリュームがあることが分かります。

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 ここでオマケと言ってはなんですが。世界的には北米NASCARを皮切りに、南半球オーストラリアのRSC(スーパーカー・チャンピオンシップ)でも直接対決が繰り広げられるアメリカン・マッスルカーの雄『フォード・マスタングLMGT3』と『シボレー・コルベットZ06 LMGT3.R』もチェックしてみます。

 今季新設のLMGT3クラスでともに初上陸となる両車ですが、初参戦のル・マン24時間で表彰台を獲得した『フォード・マスタングLMGT3』は、このGT3車両開発に際してベース車両となった7代目"ダークホース"対比で大掛かりな改良が加えられていることも話題に。


 無造作に置かれたリヤカウルにもあるとおり、その車体設計と製造にはマルチマチックが関与(自社のレーシング部門であるフォード・パフォーマンスやMスポーツと協業)しています。昨季デビューのデイトナではリヤのトランクハッチがめくれたりしていましたが、対策がなされたか再発はない模様。

 フロント周りはBMWのM4 GT3などと同様にほとんどメンバーやサイドフレーム周りが切り取られ、新造されているよう。バルクヘッド側から伸びるアルミ製と思しきフランジにサスペションアーム類のピックアップポイントを設け、ダンパー(もちろんマルチマチック製)を内側に寝かせられるよう、トップマウントの位置もエンジンルーム内のパイプフレームに設定していそう。5.4リッターにまで排気量を拡大(ベースは5リッター)の自然吸気V型8気筒"コヨーテ"の本体は見えませんが、巨大なラジエーターとオイルクーラーは前傾させています。


 エキゾーストは両側のサイドシルを這うように配置していますが、このトンネルをエアロ面で活用しようという意図まではなく、主に排熱のためであろうアウトレットが開けられています。そのサウンドは"バリバリ"ではなく、期待どおり完全に"ドロドロ"というアメリカンな重低音そのものの音質ですが、決して粗野ではないのが印象的でした。

 そして最後の1台が『シボレー・コルベットZ06 LMGT3.R』です。


 訪問時はちょうどチームの集合撮影が始まろうかと言うタイミングで、カウルの内側を観察することはできませんでしたが、ボンネットを見て「やはり本当にミッドシップになったんだなぁ……」というのが感想です。当たり前ですみません。


 機能に基づくサイドインテークは、大型の上段がエンジンルーム、下段がブレーキ冷却用で、搭載するのは"LT6.R"と名乗る5.5リッターの90度バンクのV8自然吸気。ライバルのマスタングとは異なり「フラットプレーン・クランク」を採用することで、この富士でも乾いたハイトーンボイスを奏でておりました。ベースのC8からして、もう"アメリカン・マッスル"ではなく世界的なスーパースポーツの領域にいることを思わせる音でした。

 そんなコルベットの82号車には、ロールケージに年間スケジュールのラウンド名が入った車検証ステッカー(?)も多数貼られておりました。

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