4月6日から4日間にわたり、「2025 NAB Show」が開催された。今年も多くの新技術や新ソリューションが発表される中で、注目したいソリューションがある。
【画像を見る】シネマ機材をライブ配信で使うとは?(全16枚)
これまで映画の世界では、フィルムからデジタルへのシフトが起こり、時を同じくして起こったデジタルカメラの動画撮影機能強化によって、35mmラージセンサーとレンズで撮影することが当たり前になった。映画は編集が前提となるため、撮影は収録となる。
だが多くのカメラは、外部レコーダーやモニターのためにライブ出力機能を備えている。さらにはレンズやカメラもオートやリモート機能の充実により、複数人がカメラにしがみついて一斉に1台のカメラを動かすといった撮影方法は過去のものになり、ワンマンオペレーションも可能になっている。
こうした機能の進化はやがて放送にも取り入れられ、ロケ番組ではいわゆる「デジ」と呼ばれるレンズ一体型カムコーダだけでなく、デジタルカメラも使用されるようになった。いやむしろデジタルカメラの導入は、映画よりもドキュメンタリーなどの番組制作のほうがちょっと早かったぐらいである。
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こうしたトレンドを推し進めた結果、24年あたりから映画用のシネマカメラを、スポーツ中継などライブ放送に使うという方法論が出現してきている。
実際に今回のNABでは、いわゆる「シネマティック・ライブ」とも言えるようなソリューションが多数登場してきた。今回はプロ機材各社のリリースから、こうした動きに関係するものをまとめてみたい。
●シネマ機材を放送に
ARRIといえばフィルム時代から映画界の巨人である。そんなARRIが「ALEXA 35 Live - Multicam System」を発表した。
これは「4K ALEXA 35 Live」カメラに、Live Production System 「LPS-1」と、Skaarhojのリモートカメラコントローラー「RCP Pro ARRI V2B」といったアクセサリーを組み合わせ、マルチカメラ構成にできるシステムである。LPS-1は、カメラ後部に取り付けるファイバーカメラアダプターとCCUのセットだ。
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カメラセンサーは4K対応35mmサイズで、ダイナミックレンジは17ストップ。マウントはPLとB4マウントに対応しており、スタジアムレンズと呼ばれるボックス型のレンズが装着できる。
またARRIオリジナルのルックプリセットを87個内蔵し、スタジオ、コンサート、スキーレースなどの典型的なライブプロダクション用のルックも用意されている。
カメラセットアップは専用のWebアプリが提供され、タブレットなどを使ってリモートで設定できるなど、ライブ中継に必要な機能を詰め込んだ。ARRIがテレビにやってくる(ネット中継かもしれないが)というのは過去の例からすれば驚きであり、しかもシネマ撮影からはもっとも遠いところにあるライブシステムを出したということも驚きである。
REDは新進気鋭のシネマカメラメーカーとして2007年に最初のカメラ「RED ONE」をリリースしたが、24年3月にニコンの子会社となったことは、多くの業界人を驚かせたところだ。
「RED CINE-BROADCAST MODULE」は24年のNABで発表されたものだが、現在はカメラも含めた「RED Cine-Broadcast Pack」として販売が開始された。
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使用するカメラは、RED V-RAPTOR[X]またはV-RAPTOR XL[X]で、これの背面にRED CINE-BROADCAST MODULEを取り付けることで、2系統の12G SDI(4K/60P)からSDR/HDRの信号を出力できる。
「Broadcast Color」パイプラインは、標準的なRCPでカメラコントロールを可能にするオプションで、さらにRED ConnectライセンスとRED Connect CCUを使用すれば、3倍および4倍のスーパースローモーションが可能になる。
V-RAPTOR[X]はZマウントのモデルもある。ニコンレンズでライブ中継が見られる日が来るとは思わなかった。
●総合機器メーカーの参入
上記の例は、もともとブロードキャストとは関係なかったカメラメーカーが、シネマカメラを使った放送システムを構築したという例である。
放送用機器に強いソニーでも、シネマカメラとしてすでにVENICEやVENICE 2、VURANOといった製品が知られる一方、αの技術を応用したCinema Lineとして、FX6、FX3、FX30、FR7といったカメラもラインアップしており、すでにカメラは放送機器よりもシネマに寄せている。さらにスーパー35mm4K単板センサーを搭載した放送用カメラとして、「HDC-F5500」もある。
こうしたカメラを組み合わせて、NAB2025では「Cinematic Live Production」というソリューションを発表した。すでにCCUやRCPなどは自社製品があり、サードパーティー製品を使わなくてもシステムが組めるというのが強みだ。
加えてソニーは以前から「NETWORKED LIVE」として、IPおよびクラウドを活用したライブソリューションを展開しており、これにシネマカメラを組み合わせることもできる。
フランスの事例として、「PhotoCineLive」というプロダクションでは、複数台のVENICE 2を使い、ライブコンサート、演劇公演、ファッションショー、企業イベントなどのライブコンテンツを制作可能なOBバンを構築した。最大20台のカメラをコントロールできる、12のワークステーションを搭載する。
「これから」ではなく、「もうやっている」というのは、かなりの説得力がある。
大型スイッチャーの大手Grass Valleyは、昨今はほとんどの機材をクラウド化しており、IPの旗手として業界をリードしている。一方放送用カメラは日本ではあまり導入事例がないが、カメラに関してはもともとフィリップスの放送機器部門を買収したことがきっかけてスタートしていることから、ヨーロッパでは人気が高い。
LDXシリーズは放送用カメラとしては早くからIP伝送に対応したことで知られるが、今回発表された「LDX 180」は、ライブプロダクション向けとしては同社発のシネマティックカメラとして登場した。
自社開発となるスーパー35mm単板イメージセンサーを搭載しており、マウントはPLマウント。スポーツやコンサートなどのライブイベントを、被写界深度の深い映像で撮影できる。カメラシステムとしては従来のLDX150などと共通なので、アクセサリー類はそのまま使用できる。
ARRIやREDが、シネマカメラにモジュールをくっつけてライブ化するのに対し、こちらはあくまでも放送用カメラとしてのベースを持ちながら、センサーを大型化してPLマウント対応にしたという流れである。この点ではソニーの「HDC-F5500」と同じアプローチだ。
ネット配信機材として大きなシェアを占めるBlackmagic Designは、以前からPocket Cinemaシリーズなどライトユースなシネマカメラをリリースしてきた。一方ライブ放送や配信用のカメラとしてはStudio Cameraシリーズもある。
昨今はシネマ用のガチカメラとしてURSAシリーズやPYXISシリーズを展開しているところだが、URSAシリーズには「URSA Broadcast G2」といった放送向けのものもあり、ラインアップとしては混ざりつつある。
そんな中で今回のNABでは、シネマ用のPYXISシリーズを放送向けカメラにビルドアップする、「Blackmagic PYXIS Pro Handle」および「PYXIS Pro Grip」を発表した。PYXIS Pro Handleには後部にビューファインダが、全部にはステレオマイクが内蔵され、PYXIS Pro GripにはズームロッカーとRecボタンがある。PYXISを放送用ハンディカメラとして使っていこうというわけだ。
もともとPYXISには外部収録用として12G SDIの出力があるが、内蔵のLUTを適用した状態で出力できるため、ライブカメラとしても利用できる。既存の「PYXIS 6K」は 4K解像度にすると画角がクロップされていたが、NABで発表された「PYXIS 12K」は解像度を変更しても内部でスケーリングするので、フルセンサーサイズで撮影できるようになった。またBlackMagicDesignのカメラはAF機能が弱かったが、次第に被写体追従型のAF機能を順次アップデートで追加しており、今後PYXISシリーズにも追加される見込みだ。
12G SDI対応スイッチャーは同社にはいろいろあるが、今回は4MEで80入力48出力の「ATEM 4 M/E Constellation 4K Plus」をラインアップに追加し、大規模ライブスイッチングに対応できるようになった。
Blackmagic Designでは、明確にシネマライブという格好でのソリューションはうたっていないが、機材的にはもうやれるようになってきている。あくまでも自分自身の知識をベースにインテグレーションすることになるが、相当の低コストで実現できるところが強みだ。
●レンズメーカーも動く
映画の撮影は台本があり、決まったアングルや動きで何テイクも撮るので、レンズは単焦点のマニュアルレンズが多い。一方ライブではワンマンオペレーションが基本であり、レンズも高倍率ズームかつオート対応が求められる。それをシネマカメラでやろうというわけだから、レンズ側も対応が求められる。
放送用レンズではフジノンとキヤノンが2台巨頭なわけだが、フジノンでは大型センサー向けのPLマウント放送用レンズ「Duvoシリーズ」を立ち上げ、23年には早速ボックスレンズ「HZK25-1000」をリリースしている。光学40倍のスーパー35mm用レンズだが、内蔵エクスパンダーを使用するとフルサイズセンサーにも対応できる。
さらに同年ポータブルタイプの標準ズーム「HZK24-300mm」、2024年に広角ズームの「HZK14-100」も相次いで製品化した。エクステンダーの使用でスーパー35mmとフルサイズ両方に対応するのはボックスレンズと同じだ。
放送用レンズと同じ使い勝手でシネマカメラに対応したということは、明らかにこれで映画を撮るためではなく、ライブやテレビ放送向けだ。
一方キヤノンは、放送用2/3型レンズながら、新たな映像表現として背景を大きくぼかせる「NOVEL LOOK」という新機能を開発、25年4月に提供を開始した。対応レンズは、ボックスレンズの「UHD DIGISUPER 122/111」だ。これに光学系パーツを組み込むことで、シネマレンズのように浅い被写界深度を実現する。この機能は、ズームデマンドのスイッチで簡単にON・OFFできる。
こちらは従来型の放送用カメラで、シネマ風の映像表現を実現するというコンセプトである。
これまでスポーツ中継は、よりリアルに生々しく、隅々まではっきりくっきりが良いとされてきたわけだが、ここにきて被写界深度は浅く、より見せたい被写体をはっきり分けて撮るという方向に大きく反転することになった。
この背景には、フォーカスにシビアな4K撮影がスタンダードとなったことで、カメラやセンサーが自動で被写体認識してAFを外さないようになったこともあるだろう。飛んでいくボールを追うといったショットには被写界深度の深いカメラが用いられるだろうが、選手の顔や姿は印象的に撮るという格好で使い分けることになる。
この撮影手法はすでにヨーロッパが先行しており、今後日本やアメリカが後追いするのか、このNABで試されることになったわけだ。放送系のライブカメラマンも、これからはシネマレンズやシネマカメラも使えるようにならなければ勝負できないということになりそうだ。
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