「コロナ禍は過去のこと」、そう思いたいところだが、現実はまだまだそうはいかないようだ。
新型コロナウイルスのオミクロン株の派生型である「NB.1.8.1」が東アジアを中心に急速に広がっている。入院患者や死者数も急増し、WHO(世界保健機関)も5月に監視対象に位置付けた。
「台湾では、5月末のコロナ患者の外来・救急外来の受診件数が約6万3千件と、今年最多になっています。この数字は昨年同時期の倍以上。同期間中に132件の重症例と15件の死亡例が報告されており、重症化率の高さも懸念されている状況です」(全国紙記者)
この事態を受け、台湾政府は高齢者や基礎疾患のある人を中心に、ワクチン接種や公共の場でのマスク着用などを推奨している。シンガポールやタイでも、同様に感染者や入院患者が急増。この背景には、NB.1.8.1の驚異的な感染力があるようだ。
「免疫をかいくぐる能力が、従来の株と比較して2倍ほど高いことなどが指摘されており、感染力の強い株であると報告されています」(前出・全国紙記者)
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不気味な広がりを見せる新たな変異株の存在は、東アジアに位置する日本にとってもけっして対岸の火事ではない。これまで5万人以上の新型コロナ患者を診てきたインターパーク倉持呼吸器内科・院長の倉持仁さんは次のように警鐘を鳴らす。
「現在のところ、感染時の症状などはこれまでのオミクロン株と大きな差はないように思われます。ただし、新型コロナは同じ株でも流行するエリアによって特徴的な症状が異なるケースがあります。そのため、仮に日本で感染が拡大した場合、重症化リスクが高まる可能性も否定できません。
ですから、医療機関は検査体制を整え、患者をフォローアップできるよう備えておく必要があるのです」(倉持さん、以下同)
ところが、実情は「検査すら十分にできない状況」なのだという。
「ここ数年、コロナだけでなく、マイコプラズマ肺炎や百日咳、溶連菌など、さまざまな感染症が同時流行しているので、感染者が増えてくると、たちまちすべての検査キットが不足してしまいます。病院が検査会社に検体を出そうにも『検査の試薬を切らしていて受けられません』と断られてしまう状況なのです」
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きちんと検査ができなければ、症状から判断して治療するほかなくなるが、そうするとほかの疾患と誤診されるケースも出かねない。対処が遅れれば、それだけ感染拡大のリスクは高まってしまう。
それでも、「診察を受けられたらまだよいほう」で、台湾のようにNB.1.8.1の感染が拡大していけば、「これまで以上に医療アクセスが困難になる」と倉持さん。
「特にコロナ禍以降、どの病院も赤字が膨らみ、医療資源も人材も慢性的に不足しています。そのため、どんな疾患であっても、『あなたは、こっちの人より軽症だから入院はできません』といったトリアージのようなことが日常的に起きているんです」
この状況に、さらに拍車をかけそうなのが、開催中の「2025大阪・関西万博」だろう。日本国際博覧会協会は、期間中の海外からの来場者を約350万人と見込んでおり、そのなかには東アジアの国々から来日する人も含まれる。ウイルスにとっては、日本上陸の絶好の機会ともいえるのだ。
2021年に緊急事態宣言下で開催された東京五輪では、大会期間中にデルタ株が猛威をふるい、入院できずに自宅で亡くなるコロナ患者が続出したことは記憶に新しい。
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「当然、人が集まるところでは感染リスクは高まります。感染拡大の初期段階に行動制限などの対策を講じられればよいのですが、政府はそうした手を打つことはしないでしょう」
NB.1.8.1の重症化リスクがデルタ株より低かったとしても、感染爆発が起こり、医療崩壊が進めば命を脅かされる患者の数は増える。歯止めが利かなくなったころに、慌てて“行動制限”が敷かれる可能性もゼロではない。最後に「まん延防止等重点措置」が発出されたのは’22年1月のこと。約3年5カ月ぶりの事態を招くことになってもけっしておかしくないのだ。
コロナ軽視は、別の深刻な問題にも直結する。
「感染拡大により懸念されるのが、『コロナ後遺症患者』の増加です」
WHOの調査によれば、全コロナ感染者の10〜20%が、感染から3カ月以上たっても何らかの症状を抱えていると推定されている。
「つい最近も、20代の客室乗務員の女性が、コロナ後遺症の疑いで来院されました。その女性は、コロナ感染から1年以上たつのに、飛行機に乗って作業をしていると息苦しくなって動けなくなる、と。それでずっと休職していらっしゃったのです」
感染時の症状は軽く済んでも、「その後の不調を放置しておくと、コロナ後遺症が長引く危険性がある」と倉持さんは警鐘を鳴らす。特に高齢者は要注意だ。
「コロナに罹患すると、食事や水分が十分に取れなくなり、活動量が急激に減ることで腎機能が低下し、慢性腎不全になることもあります。ほかに、高血圧や糖尿病、心疾患などの持病が悪化してしまうケースも少なくありません」
新型コロナの感染症法上の位置付けが、季節性インフルエンザなどと同等の5類に移行した2023年5月から昨年8月時点までで、すでにコロナを死因とする死者数は約5万700人にのぼっている。いまなお、コロナは命を脅かす恐ろしい感染症なのだ。
「手洗いの徹底、マスク着用、体調がすぐれないときには外出を控えるなど、いま一度個々でできる感染対策を見直すことが大切です」
再びパンデミックに見舞われる事態を防ぐためにも、くれぐれも油断は禁物だ。
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