ロシデレ“なりきり”アカウントが有料勧誘 潜入調査で見えた危うい構図

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2025年06月19日 13:20  おたくま経済新聞

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ロシデレ“なりきり”アカウントが有料勧誘 潜入調査で見えた危うい構図

 一見すると公式にしか見えないXアカウントが、キャラクターの名を語りDMで会費を徴収――。


 フォロワー25万超、金バッジ付きの“なりきりアカウント”が仕掛ける金銭トラップを突き止めるため、記者は2週間にわたりコミュニティに潜入しました。待っていたのは有料クラブへの勧誘と不自然なフォロワー急増。SNSの信頼を逆手に取った“擬似公式”アカウントの危うさを追いました。


【その他の画像・さらに詳しい元の記事はこちら】


■ 金バッジをつけた非公式アカウント

 SNS上では時折、芸能人や有名人の偽物、いわゆる「なりすまし」や「なりきり」アカウントなるものを見かけることがあります。フォロワー稼ぎや承認欲求を満たす目的である場合もありますが、中には投げ銭(金銭)を求めたり、個人情報を収集したりなど、問題ある行動をするパターンも。


 そんな中、今回記者が気になったのは、「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」(ロシデレ)公式Xアカウントが5月12日に行った注意喚起でした。


 発表によると、X上にて同作のキャラクター画像や作品名などを使用し、公式と誤認させるような形で、サブスクリプションサービスや金銭のやり取りを促す投稿・アカウントが確認されているといいます。


 続く投稿では、特定のアカウントや個人を非難・糾弾する意図はない、と説明したものの、実はファンの間では、以前から警戒されていたアカウントが存在していたのです。


 そのアカウントは、フォロワー数なんと25万を超える超巨大アカウント。アイコンやヘッダーには作品に登場するキャラクターのイラストが使われ、さらには認証済み組織のアカウントであることを示す金色のバッジを有しているなど、もはや「なりきり」の域を超えています。


 アカウント名の一部にも、作品のヒロインの名前が用いられており、一見すると公式と誤認しても仕方のないレベル。自己紹介文を見る限り、あくまでファンアカウントの立場を貫いてはいるようですが、パッと見るだけでも月額2527円のサブスクリプションサービスや、Bitcoinアドレスに送金可状態にするなど、少なからず金銭を受け取れる状態になっています。


 ただ、公式が注意を呼び掛けていた、金銭のやり取りを促すような直接的な投稿については確認できず。毎日ほぼ決まった時間に、キャラクターになりきって挨拶をするなど、いちファンアカウントとしての立ち位置でとどめているように感じました。


 もしかすると、警戒して親密になったフォロワーにだけ案内をしている……なんてことがあるのかもしれません。そこで今回は、このロシデレの非公式アカウントと接触を試みることにしました。


■ やっぱり行われていた直接的な金銭授受

 調査で使用するアカウントを使い、早速フォロー。まず手始めに、アカウントのトップで募集されている無料のコミュニティに参加を申請してみると、ほどなくして参加許可が下りました。


 しかし、ここでも特に目立つ動きは無く、管理者や参加メンバーによる定時挨拶が行われる程度。時折アフィリエイトリンクを含んだ投稿がされることはありましたが、さすがに誰でも見えるところでは、直接金銭に関するやり取りは行われていないようです。うーん、これは長期戦になりそう。


 その後もコミュニティに潜入を続け、2週間ほどが経過したころでした。なんと当該アカウントから記者あてにDMが届いたではありませんか。


「もしよかったら、私のアーリャクラブに参加してみませんか?」


 「アーリャクラブ」とは何だろう。気になったので詳細を聞いてみると、なんでも「アーリャと日常を楽しめたり、毎日楽しく個人でお話しできたり、特別な会員制ラウンジに参加できる」とのことです。さらに、


今入ってくれたら月額料金を無料にしているから、入会金3980円だけでOKだよ


 との案内が。ついに金銭を要求してきました。実際に月額料金が徴収されているかは不明ですが、作品の知名度やキャラクター人気を利用して主催コミュニティで金銭を集める行為は、やはり著作権の観点からも問題視されかねない行為です。特に支払い方法としてPayPayや銀行振込といった現実的な手段が明記されていた点からも、営利性が強く疑われます。


 しかも、どうやらこの「アーリャクラブ」、XのDMグループへの参加権であり、別途「プラチナグループ」と呼ばれるLINEグループも存在しているようなのです。


 手口としては、無料のコミュニティに登録したユーザーに対し、XのDMグループを通じて接触し、初回の会費を徴収。さらに親密な関係を築くことで、段階的に高額な会費を求めるクローズドな場へ誘い込む……という流れがうかがえます。こうした段階的勧誘は、悪質なコミュニティビジネスの典型例とも言え、非常に危険な手法です。


■ 資金繰りに困っている?時折”病み投稿”も

 また、調査を続けていると、時折トラブルに巻き込まれていることを示唆するような投稿も。


「アカウントを共有している人からブロックされたのでTwitter(X)やめる」


「支援者が約束を守らずに、借金をして活動継続を要求してくる」


「要求があるならお金を払ってからにして」


 他にも、自死を示唆するような内容が投稿されることもあり、見る人に強い不安を与える内容となっています。これらの投稿は一定時間後に削除される傾向にあり、投稿の真意や背景を外部から正確に把握することは困難です。


 ただし、仮にこれらの発言が支援を得るための手段であったとすれば、それは受け手の感情や善意を利用するものであり、道義的に大きな問題をはらんでいるといえるでしょう。



■ 出版元の見解は「本件につきましては、弊社担当部署にて把握」

 一連のやり取りについて、出版元である株式会社KADOKAWAに取材を行い、当該アカウントについての見解を求めたところ、「本件につきましては、弊社担当部署にて把握をしており、レーベルとして発信した内容が現時点でお伝えできる見解となります」との回答がありました。


 ここでいう「レーベルとして発信した内容」とは、2025年5月12日に「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」公式Xアカウントが投稿した2回の注意喚起を指します。これらの投稿では、問題の存在を示唆しつつも「決して特定のアカウントや個人を非難・糾弾する意図はございません」と明記されており、一定の距離を保ったスタンスがうかがえます。もしかすると、著作権管理やブランド保護の観点からも対応に限界があるのかもしれません。


 しかしながら、「なりすまし」や「なりきり」アカウントが、サブスクリプションサービスへの登録や金銭のやり取りを促す行為は、知的財産権や関連法規の観点から問題となる可能性が高く、場合によっては違法と判断されることもあります。


 本件に限らず、ネット上には著名人やアイドルなどの名前や写真を悪用した偽アカウントが多数存在しており、凍結されてもすぐに別のアカウントで復活するといった“いたちごっこ”の状態が続いているのが実情です。


 こうした状況の中で、私たちにできる最低限の対策は、安易に信じないことです。「フォロワーが多いから」「本人らしい写真が使われているから」といった外見的な要素だけで判断せず、投稿内容の一貫性や、公式からのリンク・認証の有無なども冷静に確認する姿勢が求められます。また、自身がそうした偽アカウントに加担しないよう意識することも、インターネット利用者としての基本的なモラルといえるでしょう。


■ (おまけ)1日でフォロワーが5万人増……あまりに不自然すぎる増え方

 ここまでの記事を執筆した翌日、改めて当該アカウントを確認してみたところ、なんと一日足らずでフォロワー数が5万人も増加していたことが判明しました。


 もちろん、インフルエンサーの投稿が突発的に拡散されることで、短期間に大量のフォロワーを獲得する事例がないわけではありません。とはいえ、該当アカウントに関しては、前日以降に大きなバズや話題化した投稿、注目を集めた痕跡は確認できませんでした。


 そうなると浮かび上がるのが、「フォロワーの購入」という可能性です。あくまで明確な証拠があるわけではありませんが、自然な成長としては極めて異例な数字であることは確かで、そうした疑念が生じても不思議ではありません。少なくとも、このような急激な数値変動があった以上、アカウントの信頼性に一層注意を払う必要があると言えるでしょう。


 いずれにせよ、こうしたアカウントに安易に接触するのは避けた方が賢明です。たとえ親密なやり取りを重ねたとしても、原作関係者や公式と直接つながることは基本的にありません。SNS上でのやり取りに過度な期待を寄せず、冷静な判断と距離感を保つことが、被害を未然に防ぐ最良の手段です。


 「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」は、燦々SUN氏によるライトノベル。2022年に「マガジンポケット」(講談社)にてコミカライズされ、2024年にはテレビアニメのSeason1が放映。今後Season2の制作も決定している人気作品として知られています。



<参考・引用>
「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」公式(@roshidere)


(山口弘剛)

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 山口 弘剛‌ | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2025061902.html

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