1980年代のポラロイドカメラを思わせるフリップ式の開閉機構を備えたインスタントカメラ「Polaroid Flip」が日本市場に登場しました。発売記念イベントで実機に触れ、撮影をしたところ、40年分の進化を感じたので紹介したいと思います。
1937年創業のポラロイドは、世界初のインスタント写真技術を実用化し、'70年代に「SX-70」、'80年代から'90年代にかけて「600シリーズ」などの革新的なカメラを開発してきました。'90年代にはデジタル化の波で一時低迷しましたが、2020年にブランドが再始動。現在では日本を含む13カ国以上で展開しています。
研究開発は大部分を台湾で行い、アムステルダムの本社と密接に連携しているそうです。グローバルな開発体制でありながら、ポラロイドらしいアナログの魅力を追求し続けているのが印象的でした。
そんなポラロイドが送り出したPolaroid Flip。フリップ式開閉機構は、ポラロイドのカメラにおいて単なるデザイン的な懐かしさ以上の意味があります。現代の技術で作られたこの機構には、3つの重要な役割がありました。
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まずはカメラを保護する機構。使用しない時にレンズやファインダーなどの精密部品を守ります。次に電源連動機能があり、フリップを開くだけで自動的に電源がオンになる直感的な操作性を実現しました。そして最後はキャリブレーション機能です。開く度に内部レンズの位置を基準値にリセットする仕組みを搭載しています。
注目の新技術が、4つの異なる焦点距離を持つレンズシステムです。この4つのレンズを焦点距離に合わせて切り替えることで、すばやい動作と本体の軽さを実現しています。
各レンズは0.65m、0.85m、1.2m、2.5mの焦点距離を持ち、それぞれ最短撮影距離対応、ポートレート撮影、日常的な撮影距離、遠景撮影用として使い分けられます。
開発チームによると、0.5〜1.2mの距離での撮影が最もシャープな結果を得られるとのこと。実際に体験してみると、カメラが被写体との距離を自動測定し、最適なレンズを瞬時に選択する様子がファインダー越しに確認できます。特に被写体まで1m程度の距離では、ジャストにピントが合いやすく、この距離での撮影が最も快適でしたし、結果も良好でした。
もう一つ興味深いのは、1980年代に使われていた超音波距離センサーの復活です。現代の技術力で再構築されたこのセンサーは、当時とは比較にならない精度と信頼性を実現しています。
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動作原理はシンプルで、カメラが前方に超音波を発信し、被写体に反射して戻ってくる時間を計測することで距離を算出。最適なレンズとフラッシュ設定を自動的に選択というものです。
フリップ式の「ふた」部分には、「ポラロイド史上最も使いやすい」というフラッシュを搭載しています。このフラッシュシステムは光量が強化されており、最大で4.5mル先までしっかり照らすことができます。光の均一性も向上し、写真全体にバランスよく光が届く設計になっています。さらに被写体との距離に応じて光量を自動調整する機能も搭載しています。
実際の撮影では、フラッシュありとなしで明確な差が確認できました。特に室内での撮影では、フラッシュの恩恵が顕著に現れます。
アナログフィルムを楽しむユーザーの間では、このいかにもフラッシュを使った写真こそ楽しいという傾向もありますから、今回のPolaroid Flipのフラッシュはこの要望に応えたといってもいいでしょう。
Polaroid Flipは、撮影の失敗を防ぐ実用的な機能も搭載しています。露出警告機能は、ビューファインダー内のLED表示で露出オーバー・アンダーを事前に警告します。近距離警告機能は、被写体に近すぎた場合に警告表示を行い、撮影支援機能により撮る前にしっかりお知らせします。これらの機能により、撮影者はアナログ写真でありがちな「撮影してから大失敗に気づく」リスクを減らすことができます。
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●日本市場で「チェキ」と差別化できるか?
イベントでは、競合でもある富士フイルム「チェキ」(instaxシリーズ)との関係についても触れました。
ポラロイドとしては富士フイルムをリスペクトしており、「競合ではなく、富士フイルムとは異なる選択肢を提供している」と考えているとのこと。「チェキはカジュアルでパーティーなどが似合うが、ポラロイドは写真表現力重視。特別な1枚のための道具なのでターゲットが違う」と話していました。
ポラロイドのこの主張は、実際に製品を触ってみると納得できるものがあります。そもそもFlipはチェキよりもボディサイズも大きいですし、例えば二重露光をする際などは三脚を使って撮影するようなカメラです。
また、日本市場については、世界有数の消費市場規模、インスタントカメラユーザーの多さ、根づいた写真文化と優れたフォトグラファーの存在、良い製品を正当に評価する市場特性といった理由で期待していると話していました。
実際にPolaroid Flipを手に取ってみると、そのサイズ感になつかしさを覚えます。そう、ポラロイドといえばこれこれ! というサイズです。一応、自撮りもこなせるというサイズでもあります。
閉じた状態から、スムーズに撮影に入る感じも、実にポラロイド的です。操作の流れは非常にシンプルで、フィルムを装填してドアを閉じると自動的にフィルムが起動し、フリップを開くと電源が自動でオンになります。シャッターボタンを半押しすると距離測定とレンズ選択が行われ、全押しで撮影完了となります。
そして撮影が終われば、フリップを閉じることでカメラを安全な状態で持ち運ぶことができます。この一連の撮影の流れこそが、ポラロイドらしさと言ってもいいのです。
製品名の「Polaroid Flip」には、単なる開閉動作以上の意味が込められています。Flash(フラッシュ)、Light(ライト)、Imagination(イマジネーション)、Parallax(パララックス)の頭文字で、アナログ写真を楽しむための4つの重要な視点を表しています。
現在のポラロイド製品ラインアップにおいて、Polaroid Flipは重要なポジションを占めています。「Polaroid Go」が世界最小のアナログカメラ、「Polaroid Now Generation 2/3」がカジュアル向けスタンダード機、「Polaroid I-2」が最上位のプロフェッショナル機と位置づけられる中、Polaroid Flipはもっともスタンダードなカメラ。価格的にも機能的にも、最適な入門機となっています。
スマホでもデジカメでも、ボディを買ってしまえば、その後の撮影コストはほぼありません。しかしアナログフィルムのカメラにはフィルム代という問題がどうしても発生します。そういった事情もあり、ポラロイドは「特別な1枚を撮るための道具」というコンセプトを打ち出しています。
コストだけで考えるのであれば、ポラロイドを選択する理由はないでしょう。でも、ポラロイドで1ロール撮影した写真の中にピタっと決まった写真が出てきたときの楽しさは、他のカメラでは得られないものなのです。
なお、6月25日まで「渋谷PARCO」1階にPolaroid Flipのポップアップストアを設け、体験コーナーも用意しているようです。興味のある方はどうぞ。
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