一度は廃れた「焼き芋」がなぜブーム? ドンキは通年販売、コンビニ3社は“冷やし”を提案

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2022年05月14日 06:41  ITmedia ビジネスオンライン

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写真通年販売するようになったドンキの焼き芋
通年販売するようになったドンキの焼き芋

 焼き芋が年間商品化している。大手コンビニ3社がそろって、冷やし焼き芋を販売。焼き芋を冷やして食べる文化が一気に広がり、定着する勢いだ。



【画像でみる】個性的な焼き芋(全26枚)



 焼き芋専門店も急増している。コロナ禍に入って以降、巣ごもり消費や健康志向によって、焼き芋のニーズが膨らんでいるから増えているという説もある。



 都内では5月7日、三軒茶屋に神戸から進出した「志のもと」がオープン。また、同月28日には高円寺において、四国・松山発祥の「芋ぴっぴ。」がオープンする予定だ。このように、地方の勢いのある焼き芋専門店が、商圏の大きい東京に攻め入り、チェーン拡大を狙ってきている。



 食品スーパーなどでは、焼き芋を焼く電気式オーブンを年間を通して設置する店が増えている。首都圏ならば、マルエツ、ドン・キホーテなどといったチェーンが、積極的に電気式焼き芋オーブンを導入して、焼き芋ブームの形成に大きな役割を果たしている。そのため、かつては冬の商品だった焼き芋が、季節に関係なく売れるようになった。



 「安納いも」「紅はるか」のように、原料のサツマイモがブランド化されてきたのが、最近の大きな変化だ。かつては、どこでどんな品種がとれても、単にサツマイモでしかなかった。しかし今は、焼き芋専門店に行くと、幾つもの品種が並んで売られている。



 マルエツやドン・キホーテでも、どの品種を使っているかが明記されている。



 かつて、昭和の高度成長期に町の中を巡回していた石焼き芋の販売車は、日本における冬の風物詩だった。寒い冬に、ホクホクの焼き芋をおいしいと感じる人は多かったが、1980年代以降はあまり見られなくなった。



 石焼き芋は冬しか売れなかったので、冬に耕作ができない農家が副業として取り組むケースが多かったともいわれる。



 一度は廃れた焼き芋がなぜ復活し、しかも年間商品となって売り上げが拡大しているのか。研究してみた。



●電気式オーブンの貢献



 焼き芋の復活劇を支えているのは、サツマイモを入れただけで焼き芋ができ上がる電気式オーブンの登場である。誰もが比較的簡単に扱える点が特徴だ。



 電気式オーブンを開発した群商(宇都宮市)の園田豊太郎社長によれば、当時スーパーが新規オープンする際のイベントで、焼き栗が人気を博していたという。そこで、焼き栗の隣で焼き芋を売ったら、大いに喜ばれるのではないかと思いついた。



 1995年にガス式焼き芋オーブンを開発。スーパーの店頭で焼き芋を販売してみると、非常に評判が良く、園田社長はインストアでの焼き芋オーブンのニーズの高さを確信したという。



 園田社長はもっと簡便に焼き芋ができないかと、ガスから電気に熱源を変更しようと試みた。



 98年に電気式焼き芋オーブンが完成。これに興味を持ったダイエー、ヨークマートから納入が始まり、マルエツ、ユニー、ヤオハン(現・マックスバリュ東海)が続いたとのことだ。



 園田社長は、「90年代のサツマイモは紅あずま、鳴門金時くらいしか品種がなかった」と振り返る。紅あずまや鳴門金時からは、いわゆる「ホクホク系」の焼き芋が出来上がる。



 一方、2009年頃から「ねっとり系」の焼き芋が注目されるようになった。蜜が滴るように甘いと、スイーツとして人気が出始め、鹿児島県種子島の安納いもがブランドとして認知された。



 後述するが、焼き芋専門店のはしりである、東京・銀座の「カドー・ドゥ・チャイモン」、愛知の「やきいも丸じゅん」、東京・豪徳寺の「焼き芋専門店ふじ」は、初期には安納いもを主力にしてヒットした店だ。



 安納いもが成功すると、それに続けとばかりにねっとり系をつくり出す品種改良が盛んに行われるようになった。



 九州沖縄農業研究センター(熊本県合志市)によって開発され、10年に品種登録された紅はるかは、安納いもに比べて栽培しやすく、短期間でねっとり系の代表格となった。また、前橋市のカネコ種苗が開発し、12年より種苗の販売が始まった「シルクスイート」もねっとり系として人気が高い。



 かつて、サツマイモの品種に注目する人は多くなかったが、今は米の品種のようにさまざまなブランドが覇を競うようになった。鹿児島産か茨城産かなど、産地も重要になっている。現状の焼き芋御三家は、紅はるか、シルクスイート、安納いもになるだろう。



 サツマイモの品種は日々改良されていて、将来的に最強の焼き芋用ブランドが開発される可能性がある。



●マルエツでは夏でも売れる



 さて、中高年の女性に焼き芋人気の火を点けたのは、マルエツではないだろうか。



 首都圏に304店を展開するマルエツは、初期の頃から電気式焼き芋オーブンを導入して、出入口付近に設置。芋が焼ける香ばしい匂いで、集客を高めてきた印象がある。店舗の大小を問わず、ほぼ全店で焼き芋を販売している。



 同社が青果売場で焼き芋販売を開始したのは05年。同社の広報によれば「弊社ご利用のお客さまのメインは50〜70代の女性で、焼き芋の購入層と一致していた」と販売動機について明かした。近年では昼食需要として、若年層の購入も増えている。



 大手焼き芋機械メーカーの電気式「遠赤外線セラミックオーブン」を使用。200度で約60分じっくりと焼く。独立した2段の窯を備え、異なった品種が焼ける機種も扱っている。



 品種は、紅はるかやシルクスイート、「紅優甘」(紅はるかを茨城県JAなめがた甘藷部会にて生産したものを独自で商標登録)などのねっとり系・しっとり系がメイン。季節により、紅あずまなどのホクホク系、金時芋や紫芋といった品ぞろえも一部にある。品種にこだわる顧客が増えている。



 販売価格は178〜248円で、品種により異なる。一部店舗ではお試し用のハーフサイズも売っている。



 マルエツでは、焼き芋を導入した当初より、好調に販売が推移。より食味の良い品質、焼き上げ時間、焼き方を研究した。味を追求するだけでなく、焼き上がり予定時間の表示、焼き立てをお知らせする店内放送をタイムリーに行って、顧客の購買意欲を促進している。



 「売場面積の狭い都心の小型店でも、スペースを確保して焼き芋を販売している。それで、より多くのお客さまに弊社の焼き芋を知ってもらえるようになった」(マルエツ・広報)



 夏場に売れるようになったのは、直近10年ほどの間に、貯蔵技術が高まり、年間を通して原料の供給ができるようになったから。冷やし焼き芋は17年頃から、一部の店舗で品ぞろえを始めた。



 今後は、スイーツとしての商品化や食べ方の提案ができればと、意欲を見せている。



●若者にも浸透



 一方で、若い人たちに焼き芋の人気を広げたのは、ドン・キホーテと考えられる。



 同社の店舗でも、主に店頭の出入口付近に電気式焼き芋オーブンを設置している。集客装置としての役割も大きい。ドン・キホーテをはじめパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が運営する店舗は国内に602店あるが、多くの店で焼き芋を販売している。



 ドン・キホーテが焼き芋販売に取り組んだのは、11年の東日本大震災の際、茨城県の農家のサツマイモの売り先がなくなって困り果てているという話を聞いたからだ。それまでも一部、東京の店舗で売ってはいたが、今のような店の名物ではなかった。



 「お求めやすい低価格で販売したから、お客さまに認知が広がったのではないか」(同社・広報)というのが見解。品種は主に紅はるかを使用。参考価格はLサイズで213円(店舗によって商品ラインアップ、価格が異なる)。



 年間売り上げは15億円を突破し、年間販売本数は1230万本に達している(20年10月〜21年9月/PPIH国内の全数値)。



 焼き芋は甘みを最大限に引き出すため、特殊な焼き芋機でじっくりと焼き上げている。サツマイモをゆっくり加熱することで甘みが増すので、ヒーターの改良を重ねている。サツマイモの状態に応じて、焼き上がりの温度を設定。一年中おいしい焼き芋を提供できるようにしているという。



 味に統一性を持たせるため、指定した農園の厳選された素材のみを取り扱っている。



 年間商品として取り扱うようになったのは、15年からだ。17年5月までは、温かい焼き芋を通年販売していた。



 同年6月からは、それとは別に原料の甘さを生かした冷やし焼き芋を夏季限定で販売し、好評を博している。18年夏季より冷やし焼き芋の通年販売を行う店もある。



 PPIHグループでは、焼き芋を「日常食」として位置付ける。専門店の広がり、サツマイモ栽培農家の増加に鑑み、今後も焼き芋ブームは続くと想定している。



●専門店が果たした役割



 焼き芋の品種のブランド化には、専門店が大きな役割を果たした。



 現在あるような常設の焼き芋専門店の走りは、08年に銀座三越にオープンしたカドー・ドゥ・チャイモンだといわれる。デパチカにあったこの店では、鹿児島県種子島産の安納いもを主軸に販売。現在の焼き芋の主流となっている、甘みが強いねっとり系、またはしっとり系といわれる焼き芋の魅力を紹介し、イメージを変えた。残念ながら、この店は7年ほど前に閉店してしまったが、焼き芋のスイーツ化に道を開いた。



 冷やし焼き芋を初めて商品化したといわれるのが、09年にオープンした愛知県碧南市のやきいも丸じゅんだ。同店は年間を通して20種類以上のサツマイモを扱い、焼き芋の食べ比べを推進した。



 冷やし焼き芋「ひえひえ君」は、焼き芋を冷蔵庫で一晩寝かせて、より甘みを凝縮した商品だ。



 都内に現存する、最古の常設焼き芋専門店は世田谷区豪徳寺の焼き芋専門店ふじで、同店は13年にオープンした。カドー・ドゥ・チャイモンでは1本1000円以上していた安納いもの焼き芋が、400円前後と半額以下になっていて、値段がかなりこなれている。立地も「招き猫」発祥の地といわれる豪徳寺参道の商店街にあり、観光のニーズが高い。



 また、18年には都内の銀座7丁目のクラブ街に「銀座つぼやきいも」がオープン。この店では焼き芋をつぼ焼きにすることで差別化。クラブに勤める女性にも人気のようだ。1本の値段が896円とやや高いが、包装にもこだわっている。



 つぼ焼いもと生乳でつくった「つぼ芋ラテ」という、独特なドリンクがある。



 この他にも、徐々に専門店が増え、サツマイモを貯蔵する技術、焼き芋を焼く技術、冷やし芋をつくる技術もこの頃には確立されてきた。



 そうした中で、20年2月には、さいたまスーパーアリーナ(さいたま市)のけやき広場で、第1回「さつまいも博」という4日間のイベントが開催され、5万人が来場。その中の企画として、18店が参加した「全国やきいもグランプリ」が行われた。来場者の投票によりグランプリを決めるもので、第1回は神戸の「志のもと」が選出された。



 こうしたイベントの効果もあり、やきいもグランプリに出店した店を集めた催事が、百貨店で開催されるなど、焼き芋の注目度がアップした。



 コロナ禍で、焼き芋が好調に推移した背景には、このような業界活性化イベントの効果もあった。



 さつまいも博は22年も2月23〜27日の5日間、同所で開催。全国やきいもグランプリには20店が集結した。都内の新宿と立川に店舗を構える野菜レストラン「農家の台所」がグランプリに選ばれている。



●懸念されるサツマイモ基腐病



 こうした経緯で、焼き芋の年間商品化が進んできて、今年の春夏シーズンは、3大コンビニがこぞって冷やし焼き芋を強化してきた。セブン-イレブンが「セブンプレミアム」から焼き芋半分を冷やした「冷たく食べる焼き芋」を発売。ファミリーマートが千葉県のJAかとりと組んだスイーツ感覚の「みつあま焼き芋」を、ローソンが自社農園を共同で経営する芝山農園(千葉県香取市)の開発商品「寝た芋」をそれぞれ販売している。



 コンビニでは4年ほど前から徐々に冷やし焼き芋に取り組んできた。最近は輸入小麦の価格高騰で、菓子パンやサンドイッチの値段も高いので、栄養価を考慮すれば焼き芋が選ばれる面もある。



 順風満帆に見える焼き芋業界だが、懸念材料は「サツマイモ基腐病」のまん延だ。ヒルガオ科の植物がかかる病気で、18年に沖縄県と鹿児島県で報告され、関東にも広がってきている。連作障害(同じ場所でずっと栽培することで生育が悪くなること)の1つといわれる。



 鹿児島県ではサツマイモ作付面積の半分で被害が出ており、全滅した圃場(ほじょう)もある。安納いもの不作の主な要因はサツマイモ基腐病。この厄介な病気の克服が、焼き芋の発展にとって必須の条件だ。



 日本の伝統食である焼き芋は食事にもスイーツにもなる、未来の可能性を秘めた食品なのである。



(長浜淳之介)


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  • 子どもの頃からリヤカーの焼き芋を婆ちゃんに頼んで食べていた。そしてスーパーで売っていて未だに売っている、たまに買って、廃れてたの知らない
    • イイネ!12
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