政府が国会に提出した「能動的サイバー防御」関連法案は、ネット空間の通信監視が柱の一つだ。憲法が保障する「通信の秘密」に一定の制約を課す内容だが、政府はサイバー攻撃の被害防止という「公共の福祉」のために許容されるとの立場。法案審議では、権利と制約のバランスや、厳格な運用が担保されるかどうかが争点となる。
年末年始に発生した航空会社や金融機関の大規模システム障害など、サイバー攻撃は増加している。政府機関も標的となるため、安全保障面で連携を深める米国は日本に対処能力の強化を要請していた。
警察庁によると、日本で起きた攻撃の99%は海外が発信元だ。通信機器にひそかに仕込まれたマルウェア(悪意あるソフト)から瞬時に発動される特性上、政府は能動的サイバー防御を導入し、被害が生じる前の段階で端緒をつかみ対処する必要があると判断した。
憲法21条は「通信の秘密は侵してはならない」と定める。この対象は通信内容だけでなく日時や送受信者など通信の存在全体に及ぶとされる。政府関係者は能動的防御を「侵害そのもの」と認める。
2000年施行の通信傍受法の制定を巡っても、憲法との整合性が問われた。政府は憲法12、13条の「公共の福祉」規定から最小限度の制約は許されると主張。裁判所の令状を条件に捜査機関による情報収集を可能とした。
今回は令状によらず、独立機関「サイバー通信情報監理委員会」による事前承認が条件となる。監視の可否判断や、取得情報から人の目に触れない形でメール本文などを消去する仕組みの適正性など、監理委がどのような体制でどう監督していくかの詳細は明らかになっていない。
平将明サイバー安全保障担当相は7日の記者会見で「『通話が聞き取られる』『メールの中身が見られる』と心配する方もいるが、一切見ないし、見る必要もない」と理解を求めた。一方、共産党の山添拓政策委員長は会見で「通信監視の乱用的な使用を排除できる保証はない」と批判した。
能動的防御を巡っては、警察・自衛隊による無害化措置が他国の主権侵害に当たらないかなど、論点は多岐にわたる。立憲民主党の野田佳彦代表は能力強化の必要性を認めつつ、「いろいろ課題もある。よくチェックしなければいけない」と語った。