「チラシを配っても、家なんて売れないでしょ」 それでも、オープンハウスが“路上営業”を続ける理由

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2026年05月10日 08:50  ITmedia ビジネスオンライン

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オープンハウス、路上営業の舞台裏

 物価高や人材不足を背景に、新入社員の初任給が上昇している。厚生労働省の調査によると、平均初任給(大卒)は2019年の21万2000円から、2023年には23万7300円まで上がった。「初任給引き上げ」の流れが続く中、不動産大手・オープンハウスの高額な初任給が話題を集めた。


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 2025年入社の新入社員の初任給を33万円から36万円に引き上げ、さらに2027年入社の営業職では40万円にする方針を打ち出した。高額な初任給について、今年の新入社員(180人)はどう受け止めているのだろうか。


 「初任給の高さが入社の決め手になったか」という質問に対し、70%が「はい」と回答。一方で、「40万円もらえれば十分」と考えているわけではない。85%が「20代で年収1000万円以上を目指したい」と答えており、高い収入への意欲もうかがえた。


 ところで、気になるデータもある。「給与に見合う成果をすぐに出すことができるか不安」(47%)と答えた人が半数近くいたのだ。


 「ん? 業績が苦戦しているから、いまから心配しているの?」と思われたかもしれないが、オープンハウスグループの決算は好調だ(2026年9月期の純利益は、過去最高を更新する見込み)。首都圏ではマンション価格の高騰や供給不足が続いているので、「マンションは高すぎる」と感じる人が増えている。その結果、比較的手が届きやすい戸建て住宅の需要が伸びているようだ。


 ただ、若い社員がプレッシャーを感じるのも無理はない。オープンハウスには、同社の代名詞ともいえる「路上営業(源泉営業)」があるからだ。


 路上営業とは、駅前や物件前を歩いている人に直接声をかけるスタイルのこと。晴れの日も雨の日も、暑い日も寒い日も声をかけて回っているので、SNSでは「キャッチ営業を新入社員にさせて不快」「無視しても、しつこく付いてくる」といった厳しいコメントが飛び交っている。


 街中で通行人に次々と声をかける営業スタイルと聞くと、どこか“昭和的”なイメージを抱く人もいるかもしれない。ただ、いまもこの手法を続けているということは、それなりの理由があるはず。声かけの舞台裏について、同社営業本部で部長を務める小軽米篤史(こがるまい・あつし)さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。


●声をかけても空振りばかり


土肥: オープンハウスといえば、いわゆる路上営業が有名ですよね。駅前やスーパーの近くなどで、「新築物件を紹介していますが、いかがでしょうか?」といった声かけをしている。多くの人から「オレも声をかけられたことがある」「ワタシもワタシも」といったコメントが聞こえてきそうですが、同業他社で同じようなことをしているところって、少ないですよね。


 SNSを見ていると、「忙しいときに迷惑だ」「声をかけただけで、家なんて売れるわけがない」などと厳しいコメントが飛び交っていますが、なぜ続けているのでしょうか?


小軽米: 駅前などで声をかけても、「ちょうど家を探していたんです。ぜひ、物件を見せてください!」といった反応をする人はほとんどいません。実際には「えっ、家ですか? いまは探していません」といった返答が大半を占めています。


 そもそも不動産は価格も高く、人生で何度も経験する買い物ではないので「興味はあるけれど、何から始めればいいのか分からない」という人が多いんですよね。実際、友人や同僚の購入をきっかけに「自分もそろそろ考えるべきか」と感じながらも、なにもしていない人たちがいる。


 つまり、路上営業は「今すぐ家を買う人」を探すだけではないんです。まだ行動には移していないものの、将来的には購入する可能性がある人との接点をつくっている。いわば、潜在的な顧客を掘り起こす手法、というわけです。


土肥: 1日に何人くらい声をかけているのでしょうか?


小軽米: 駅の規模や人通りによっても違いますが、1日に1000人を超えることが多いですね。そのうち、物件見学につながるのは1日に1〜2人。0人ということも、珍しくありません。


 この数字を聞くと「効率が悪すぎでしょ」と思われるかもしれません。野球に例えると、ほとんどが空振りです。ですが、これだけは言えるんですよね。「合理的な営業手法である」と。


土肥: 路上営業には、人件費を含めてそこそこのコストがかかるはず。ですが、物件の見学につながるのは1日に1〜2人。そこから実際の購入に至るまでには、さらに高いハードルがある。にもかかわらず、なぜ「合理的な営業手法」だと言い切れるのでしょうか?


●路上営業は合理的


小軽米: なぜ、路上営業は「合理的な営業手法」と言えるのか。まず、当社で住宅を購入した人の約半数は、自宅から半径2キロ以内の物件を購入している。つまり、生活圏の近くで家を探している人が多いということですね。路上営業では、その物件の近くで声をかけているので、潜在的な顧客に対して、成約につながりやすい家を紹介できているのではないでしょうか。


 また、契約全体の3割ほどは、路上営業をきっかけに成立しています。「ネットの普及によって、その数字は下がっているのでは?」といった指摘もありますが、この10年ほどを振り返っても、3割前後で推移しているので、路上営業はまだまだ効果的と見ています。


 では、残りの7割は、何がきっかけで成約に結びついているのか。多くは、ネット経由です。先ほどコストの話が出ましたが、ネット広告を出すよりも、路上営業のほうがコストを抑えられるんですよね。


土肥: 「オレは路上営業をきっかけに家を購入するんだから、ちょっと安くしてよ」といった声が出てくるかもしれませんね(笑)。まあ、それはともかく、路上営業で紹介している物件も、ネットに掲載している物件も基本的には同じ。であれば、「わざわざ声をかけなくてもいいよ。ネットを見るからさ」といった指摘もあるのでは?


小軽米: 路上営業で紹介している物件の中には、ネットで公開していないモノもあるんですよね。もちろん、ネットに掲載している物件が、売れ残っているというわけではありません。都市部の人気物件などは、ネットに掲載する前に売れてしまうことがあるんです。


土肥: ふむふむ。


小軽米: 話がちょっと変わりますが、そもそも自分は家を買えるのか。金融機関からいくら借りられるのか。こうしたことを知らない人って、実は多いんですよね。


 例えば、家賃15万円の2LDKに住んでいる人がいるとします。当社では、周辺の家賃相場を踏まえて物件を企画することが多いので、住宅ローンを利用すれば、月々15万円程度の返済で新築3LDKを購入できるケースもあります。こうした提案をした場合、どのような反応が返ってくると思いますか。


 賃貸に住んでいる人の多くは、「家賃が高い」「もう少し広い部屋に住みたい」と感じている。ただ一方で、「不動産は怖い」というイメージも根強く、住宅ポータルサイトに問い合わせることすらためらう人も少なくありません。


 そうした人たちに路上営業で声をかけると、「月々の支払いが同じで、いまより広い3LDKの新築に住めるのか」といった反応が返ってくるケースがあるんですよね。


●路上営業の課題


土肥: 路上営業の課題を、どのように受け止めていますでしょうか?


小軽米: 昨年は、路上営業をきっかけに3000戸ほど売れました。一定の支持を得ている手法だと思っていますが、だからといって何をしてもいいわけではありません。声をかけられることに不快感を覚えたり、社員を見て「大変そうだ」「かわいそうだ」と感じられたり。地域の人に受け入れられるように、改善を続けていかなければいけません。


 ちなみに、クレームの件数は減少しているんですよね。例えば、路上営業をしている担当者が300人いるとします。年間のクレームが300件あれば、1人当たり年1回クレームを受けていることになる。年150件であれば、2年に1回ですよね。以前は、1人当たり2〜3年に1回のペースでクレームがありましたが、いまは10年に1回ほどまで減っています。


土肥: クレームを入れるほどではないが、SNSに不満を書き込むくらいには不快である、といった人も多そうです。


小軽米: そうかもしれません。ただ、当社としては、なぜSNSに不満を書き込もうと思ったのか。具体的に、何に不満を感じたのか。そうした声を、もっともっと知りたいと思っています。「お客さま相談室」の電話番号は、ネットだけでなく、名刺にも記載しています。行き場のない不満が別の形で広がらないように、改善していかなければいけません。


土肥: 路上営業の際、担当者はオレンジのジャンパーを着用して、チラシなどを配っていますよね。以前は、どのような服装でしたか?


小軽米: 黒いジャケットを着用していることがありました。ただ、「威圧感があって、怖い」という声をいただきました。これではいけないということで、いまの明るい色の服を着ることにしました。あと、体の前後に広告板を下げる、“サンドイッチマン”形式の営業をしていたこともありました。さすがに印象が悪いので、いまは禁止しています。


●路上営業を効率的に


土肥: 路上営業を効率的に行うために、何か取り組んでいることはありますか?


小軽米: 2020年ごろから、DXの導入を積極的に行っています。営業に出るとき、担当者はチラシを準備しなければいけません。ちょっと細かい話になりますが、チラシの下に会社の連絡先などが書かれた「帯」を付けなければいけません。ただ、物件の内容によって、その帯のサイズが異なるんですよね。


 帯のスペースが大きかったり、小さかったりするので、担当者はその作業に時間がかかっていました。では、いまはどうしているのか。過去の事例をAIに読み込ませて、適切なレイアウトを自動作成できるようになりました。


 また、その物件に関する資料も作成しなければいけません。間取りや敷地の情報だけでなく、周辺環境はどうなっているのかなど、7種類ほど用意していました。現在は、物件ごとに必要な資料をAIが判断し、自動で収集できるようになっています。


 帯のレイアウトや関連する資料の用意などに、担当者は1日に30分〜1時間ほどかかっていました。しかし、いまはその時間を短縮できたので、生まれた時間を、接客など人にしかできない業務にあてています。


土肥: 路上営業と聞くと、どうしても“気合と根性”の世界を想像していました。ただ、実際にはAIを活用しながら、効率化を進めているんですね。本日はありがとうございました。


(おわり)


※下記の関連記事にある『【完全版】オープンハウスが“路上営業”がスゴすぎる』では、配信していない豊富な写真とともに記事を閲覧できます。



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