カイくん。大学入学式にて「Paradi Show(パラディショー)」は、日本人の悠子さんとアメリカ人のビルさんの国際結婚カップルと、3人の息子たちの日常を発信する人気YouTubeチャンネルです。
長男カイくんの「日本の高校に進学したい」という希望をきっかけに、2021年に悠子さんと3人の息子たちは日本へ移住しました。
前編では、当初アメリカの大学を第一志望としていたカイくんが日本の大学を受験した理由や、大学受験の裏側についてお伝えしました。後編では、受験直前に重なった悠子さんの父の急逝という試練や、カイくんの巣立ちなどについて聞いていきます。
◆受験1週間前の、父の訃報
――カイくんの受験直前期に、悠子さんのお父様の危篤の知らせがあったそうですが、そのときはどうされたのでしょうか。
悠子さん(以下、悠子):カイの受験の1週間ほど前に父の危篤の知らせがあり、私は急遽1人で東北の実家に帰ることになりました。実家に着いたのは翌日の夕方。その日のうちに、父は息を引き取りました。
カイは大切な受験を控えている、でも父も母も大事だという葛藤がありました。ただ、私の兄弟はみんな外に出て働いているので、自由に動けるのは在宅で仕事をしている私だけ。気落ちしている母のそばについていてあげたかったんです。子どもたちのことは、アメリカから夫のビルに来てもらって任せることにしました。
ビルが日本に到着するまでの間、ママ友が「サポートするよ」と言ってくれて、ご飯を作りに来てくれました。息子たちはある程度は家のことはできるのですが、本当にありがたくて、「この街に移住してよかったな」と心底思いました。
――悠子さんは、悲しみをどう乗り越えたのでしょうか。
悠子:父はすごく明るい人で、湿っぽいのは嫌いだったので、あまり暗くならないようにしていました。母と、「これからは、やりたいことできるじゃん!」と言ったり(笑)。カイには、悲しんでいるところは見せないようにしていました。
カイの受験を元気に応援することが、私自身にとってもよかったと思います。志望校に合格できるかどうかは本当にわからなかったので、無事に合格したときは「おじいちゃんが入れてくれたんだね」と話していました。
◆本番直前に発覚した、思わぬ落とし穴
――本番の入試では、どんなことが大変でしたか?
悠子:口頭試問の練習ができなかったことです。出題された問題をホワイトボードに書きながら解き、先生方の前で説明する試験があったのですが、カイはほとんど黙って解いてしまい、相当落ち込んでいました。
学校では口頭試問の指導が難しかったので、塾で指導してもらう予定でした。総合型選抜に特化した塾に通っていたので、口頭試問の指導をしていただくために多額の授業料をお支払いしていたんです。面接の練習はしてもらいましたが、本番の1ヶ月前になっても口頭試問の指導はありませんでした。
不安になって問い合わせると、「順番に指導しますから心配しないでください」と説明がありました。そうなんだと思っていたら、結局本番まで口頭試問の練習を一切してくれていなかったんです。
そのため、カイは本番で初めて挑戦することになり、「どうしよう……」とかなり緊張してしまったようでした。
――本番直前にそれが発覚したのは、かなりつらかったのではないでしょうか。
悠子:私は父の葬儀を終えて東北の実家で母に付き添ったあと、そのまま直接カイの入試が行われる東京へ向かいました。東京に着いて初めて、口頭試問の対策をまったくしてもらっていなかったことを知り、唖然としました。合格したあと、塾から「合格実績に名前を載せたい」と電話があったのですが、「それはダメです」と思わずお断りしてしまいました(笑)。
◆「日本の学生はすごい」アメリカ人の夫が感じたこと
――ビルさんは、カイくんの大学受験をどう見ていたのでしょうか。
悠子:実際にカイが大学受験をするまでは、具体的なイメージはつかめていなかったみたいです。アメリカの大学受験は日頃の成績や課外活動の実績が重視されるため、日本のような受験勉強をする必要がなく、ビルもそれと同じようなものだと思っていたようです。
だから、日本に来てカイの勉強量を見て初めて「ただごとじゃない」と思ったみたい。本番の試験でも、顔面蒼白で帰ってきた姿を見て、「これを乗り越えている日本の学生はすごいな」と言っていました。心配していたぶん、合格を知ったときはすごく喜んでいましたね。
――日本とアメリカの両方の学校に通わせたことで、違いを感じることはありましたか?
悠子:息子のお友達を見ていると、日本の子ども達は本当に優秀だと感じます。要領がよく、頭の回転が速い。何より、問題解決能力が高くて宝石みたいな才能を持った子達がいっぱいいると感じます。
先日、カイが大阪に卒業旅行に行ったのですが、スーツケースを預けたら取り出せなくなってしまったそうです。カイが予約をした有料のロッカーだったので、本人は責任を感じて「どうしよう」と私に電話をかけてきました。
でも周りの同級生達は、「別の方法で支払いしてみたら?」「運営会社に電話してみるよ」と落ち着いて話し合っていたので驚きました。アメリカだったら、まず間違いなく悲鳴をあげたり、責任を押し付けあったりしてパニックを起こしていたはずです(笑)。
ただ、こんなに素晴らしい資質のある子が多いのに、筆記試験で進路が決まってしまうのはもったいないとも感じます。問題解決能力やクリエイティビティと、試験で正解を出すことは全然違うと思うんです。それよりも、好きなことは何か、どれだけの意欲を持っているのかを重視して、興味があることを学べる場所に進めるようになればいいなと思っています。
◆子どもの巣立ち、寂しさを解決する方法とは
――日本の高校生活を通して、カイくんはどんなところが成長したと思いますか?
悠子:カイは時間管理が苦手で、身の回りのことは人に頼ることが多かったのですが、高校生活を通してすごく成長しました。とくに、テニス部での活動が彼を育ててくれたといっても、過言ではないと思います。
朝練のために5時に起きて、自分で朝食を用意して出発する。試合のスケジュールや、持ち物の管理もできるようになりました。日本の厳しい部活動を経験できたことは、すごく有益でした。
――4月からは、カイが東京で一人暮らしを始めたそうですが、いかがですか。
悠子:家にカイがいないことが、すごく悲しいです。進路を決めた時から覚悟していたつもりでしたが、家を出る日が近づくにつれて、涙が溢れるようになってしまいました。初めての子どもなので、お腹にいるときからカイには一人っ子のように時間をかけてきた気がします。
私は結婚して渡米した頃、アメリカの生活がすごく苦しかったので、いつもカイの存在に支えられていました。カイも、要領のいい弟達とは違って、学校でうまくいかないことが多く、いつも二人で問題を解決してきました。だから、今はすごく寂しいです。
カイは東京に引っ越してからよく電話をかけてくれたのですが、切ったあと悲しくなってしまうので「もうあんまりかけなくていいよ」と言っちゃいました。子離れできてないですね(笑)。でも、カイが東京生活を思い切り楽しんでくれることが、涙を止める1番の方法だと思っています。
――今後はYouTubeチャンネルの活動など、どんな展望があるのでしょうか。
悠子:子ども達が大きくなったので、そろそろチャンネルのテイストを変えないといけないなと思っています。
次男のコビは、悪戦苦闘しつつも高校の勉強や部活を頑張っていて、自分のインスタグラムのアカウントも始めています。
末っ子のライアンは小6になり、そろそろ思春期に入るので、子どもたちの様子を主軸にするのは難しくなっていくかもしれません。今後は、アメリカで生活をすることを視野に入れつつ、アメリカ人から見た日本の姿を紹介したり、逆に日本のことを海外の人に向けて発信することを考えていきたいと思っています。
<取材・文/都田ミツコ>
【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。