【F1】アストンマーティンの組織の弱点を浅木泰昭が指摘 ホンダには愛ある喝「サムライのように戦うべきだ!」

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2026年05月15日 07:10  webスポルティーバ

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元ホンダ・浅木泰昭 連載
「F1解説・アサキの視点」第11回 後編

 2026年シーズン、ホンダ製のパワーユニット(PU)を搭載するアストンマーティンは、開幕から苦しい戦いが続いている。また、2025年までホンダと組み優勝争いを演じたレッドブルも厳しいレースを仕入れられる状況だ。

 大きな期待をされていたレッドブルとアストンマーティン・ホンダが低迷する背景とは? また勝つために組織に何が必要なのか? 元ホンダ技術者でF1解説者の浅木泰昭氏に話を聞いた。

【アストンマーティンに足りない人材】

 ホンダがパートナーシップを組んだアストンマーティンとレッドブルに共通点は多いと思います。レッドブルの創業者ディートリヒ・マテシッツさんと、アストンマーティンのオーナーであるローレンス・ストロールさんはともに優秀なビジネスマンで、絶対的な権力を持つチームのリーダーです。ふたりは勝利に対する並々ならぬ情熱も持っています。

 でも大きな違いは、マテシッツさんのそばにはレースのことをよく知っている人間が常にいたことです。レッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めたヘルムート・マルコさんと、トロロッソ(現レーシングブルズ)のチーム代表を務めたフランツ・トストさんです。

 マルコさんはマテシッツさんの代弁者としてチーム内の意思決定に深く関わり、レッドブルとトロロッソのドライバーの人事権も持っていました。トロロッソの代表を務めていたトストさんは若手ドライバーの育成に携わっていましたが、ホンダとレッドブルがパートナーシップを組むきっかけも作ってくれました。

 同郷の3人は結束力があり、"オーストリア・マフィア"と呼ばれることもありましたが、そういう人脈がないストロールさんは、チーム内の重要な決定をする際に全部自分で判断していた可能性があります。きっと見えないところがあったのでしょう。開幕戦からのアストンマーティン・ホンダの低迷は、ストロールさんが自分ひとりでやることの限界を示していると思います。

 これまでマクラーレンやレッドブルなどで数々のチャンピオンマシンを手がけたエイドリアン・ニューウェイさんはF1でもっとも優秀なデザイナーで、彼に技術面をすべて任せて、最新の設備が整ったファクトリーで思いどおりにやってもらえば結果が出るだろう......。そのストロールさんの判断は間違っていない可能性もあったと思いますが、結果論だけで言えば、天才ひとりではチームがうまく機能しなかった。

 ストロールさんは今、マテシッツさんにとってのマルコさんやトストさんのような人材を探していると思いますが、そう簡単には見つからないかもしれません。

【やる気や才能を引き出したかつてのレッドブル】

 あらためて振り返ると、マテシッツさんが存命だった時代のレッドブルはすばらしいチーム運営がされていたと思います。「お金のことを気にせず、勝つためには何でもやるんだ」というマテシッツさんの意志をマルコさんが現場に伝え、クリスチャン・ホーナーさんが代表として実際にチームを動かしていました。

 技術者は予算を気にせずに速いマシンを開発することに集中できる環境だったので、すごく働きやすい職場に見えました。実際にみんな生き生きと仕事に取り組んでいましたし、ホンダに対しても「のびのびとやってくれよ」とよく言っていました。

 レッドブルの首脳陣は、ホンダがマクラーレンと組んで第4期の活動を始めた頃(2015〜2017年)に、マクラーレンにバッシングされて苦しんでいるホンダの姿を目の当たりにしていたので、レッドブルとトロロッソのスタッフには「ホンダに無理なことを言うな」と大号令をかけていたようです。

 実際にレッドブルのスタッフがホンダに対して無駄なプレッシャーをかけるようなことはいっさいなかったですし、我々の意見もしっかりと聞いてくれました。

 そして天才のニューウェイさんが「ルノーのPUは競争力が低く、やる気が出ない」と不満をこぼせば、市販のスポーツカーであるアストンマーティン・ヴァルキリーの開発に従事させながら、彼をうまくコントロールしていました。そしてF1マシンの開発をもう一度やる気になったら、いいところだけを引き出していました。

 レッドブル・ホンダのパートナーシップは大成功し、すばらしい結果を残すことができました。でもマテシッツさんが2022年に亡くなったあと、マルコさんとホーナー代表の間で権力闘争が起こると、働きやすかった職場環境が一変します。

 それに嫌気を差して、現在マクラーレンでテクニカルディレクターを務めるロブ・マーシャルさんのような優秀な技術者が次々とチームを離脱し、そのうちニューウェイさんも移籍を決断します。さらに権力闘争の当事者であるホーナー代表やマルコさんもチームを離れることになり、天才をうまく使いこなしていた組織は弱体化し、勝てなくなってしまった。

 それをホーナーさんのあとを継いだローラン・メキース代表が必死に立て直し、マックス・フェルスタッペン選手をチームにつなぎとめようとしているのが今のレッドブルだと思います。

【ホンダよ、サムライのように戦え!】

 ホンダは2026年から導入された新しいレギュレーションに合わせたPU開発に失敗したということもありますが、戦う集団になっていないという印象があります。

 F1は勝負の世界です。勝つためにはサムライのように戦う人間が組織のなかには絶対に必要なんです。私が理想とするのはサムライと言っても、相手に砂を投げつけ、目潰ししてでも勝つという野武士です。

 メルセデスは今シーズン、内燃機関(エンジン)の圧縮比に関するレギュレーションの抜け穴をついて、出力面でアドバンテージを得ているという疑惑が出ていますが、彼らの戦い方に似ているかもしれません。

 レギュレーションをしっかりと守ってきれいに勝つ。そんな美しいストーリーは完全に否定し、卑怯だと言われようが、とにかく勝ちにこだわる。私がホンダでPUの開発責任者を務めていた時代は、そういう姿勢で戦い、メルセデスを破って世界一に輝くことができました。

 野武士のようにレギュレーションのグレーゾーンを使ってでも、ライバルに打ち勝つ姿勢を後輩たちに見せてきたつもりでしたが、今のホンダの姿を見ると、それがうまく伝わっていなかったのかもしれません。リーダーが変わったことで、私がPUの開発責任者に就任する2017年の夏以前のような、「決められたことだけをやります」という組織に戻ってしまったように感じています。

 もうひとつ感じることは、ホンダのなかに尖った才能を持った"変な人間"が少なくなっていることも影響していると思います。ホンダには創業者の本田宗一郎さんをはじめ、変な人間がたくさんいて、常識にとらわれず無謀な挑戦を繰り返して、F1で世界一になったり、世の中にないものを作り出したりして、ベンチャーから大企業に成長していきました。

 私が関わったホンダの第2期(1983〜1992年)の頃でも、当時のレース部門のトップに盾をつく私のような若造を含め、変な人間が山のようにいました。ところが今はリクルート的に人気が出てきて、学歴の高い、優秀な学生がたくさん入ってくるようになってきました。

 それに伴い、採用側の方針も変わってきて、どうせなら変わり者よりも、頭がよくて、常識のある学生を採用するようになってきました。それが10年以上も続けば、そういう社風になってきます。だんだん変わり者が活躍する場は小さくなり、頭がよくて、上から言われたことはきっちりとこなすサラリーマンとしては優秀ですが、戦うことが苦手な人間ばかりになってしまったのではないかと感じています。

 だからこそ、ホンダにとってF1に参戦する意義があります。F1の世界では、しっかりとした組織でなければ、結果は出せません。技術がないところは、負け続けるしかないのです。そんな厳しい環境のなかで世界一を目指して挑戦することで人が育ちます。ホンダにとって人材を発掘する場所としてF1は絶対に必要だと私はこれまで主張してきました。

 とはいえ、リーダーが代わっただけで、チャンピオン争いをしていたチームが完走するのがやっと、というところまで落ちてしまうのか。そこは忸怩(じくじ)たる思いがありますが、この苦境から誰かがはい上がってきて、ホンダを戦う集団に立て直し、PUの開発を進めてくれることを期待しています。

第12回につづく

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<プロフィール>
浅木泰昭 あさき・やすあき/1958年、広島県生まれ。1981年に本田技術研究所に入社し、第2期ホンダF1、初代オデッセイ、アコード、N-BOXなどの開発に携わる。2017年から第4期ホンダF1に復帰し、2021年までパワーユニット開発の陣頭指揮を執る。第4期活動の最終年となった2021年シーズン、ホンダは30年ぶりのタイトルを獲得。2023年春、ホンダを定年退職。現在はF1コメンテーターとして活躍。初の著書『危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦』(集英社インターナショナル)が好評発売中。

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