
ECの爆発的普及により宅配ドライバーの負担はかつてないものとなっている
ネット通販で「ポチる」だけで、翌日には玄関先に荷物が届く。その当たり前を最前線で支える人間が、いま次々と現場を去っている。国土交通省の統計によれば、EC市場はこの10年でおよそ2倍に膨らみ、宅配便の取扱個数は年50億個を突破した。だが、運ぶ人手は増えない。
「運送会社の正社員だけでは人手が足りず、自分のような下請け会社に登録するフリーランスの配達ドライバーが増えています。最近だとロケットナウやUBERイーツのドライバーも随分増えたけど、こなさなきゃいけない件数に人員の数が追いついていない。拘束時間は長く、お客さんも理不尽なのが一定数いるから、嫌になってしまって定着しづらいんです」
そうこぼすのは、大手運送会社の委託先で配達を続ける三井祐介さん(仮名)。大阪の郊外を、白い軽バンで走り回る現役のドライバーだ。
三井さんの給料は完全歩合制。配達した個数だけで決まる仕組みだという。
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「大手運送会社から僕が所属する元請けに1個200円ぐらいの単価で降りてきて、そこから1〜2割ほど抜かれたのが自分の取り分。完全に歩合制です。月の売り上げは70万円くらいにはなるけど、ガソリン代など諸経費を引くと手残りは40万〜50万円ほど。けして悪い給料だとは思いませんが、この条件でも人が定着せずにどの業者も慢性的な人手不足です」(三井さん)
【宅配便の取扱い個数は15年で1.5倍に膨らんだ】
国土交通省の統計によると、宅配便の取扱個数は2010年度の約32億個から、2023年度には約50.7億個へ。15年で1.5倍超に膨らんだ計算になる。これを捌(さば)いているのが三井さんのような配達ドライバーだが、その疲労は濃い。
「1日の拘束時間は約13時間。あるものを配るだけなら、その半分もあれば本来は配達を終えられるはずなんですが、指定時間に対応しなきゃいけないため、待機の時間がとにかく長いんです。
朝の指定、昼の指定、夕方、夜......。中には、指定された時刻に行ったのに家にいないお客さんも結構いるから、再配達が心身ともにストレスになる。雨でも猛暑でも台風でも届けないといけない。だいたいみんな、慣れる前にキツくて辞めていくんですね」(三井さん)
ドライバーを苦しめる大きな要因の1つに、再配達がある。国土交通省の試算では、全貨物における再配達の割合は1割を占めるというが、これを労働力に換算すると、年間およそ6万人のドライバーに相当するという。
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「僕らは一軒届けたらナンボの商売なので、テンポよく配達して回りたいのが本音。指定された時間に行っても留守で、『やっぱり何時にしてください』みたいになると、拘束時間だけが延びていく。
マンションなどの集合住宅は宅配ボックスを置くところも増えたけど、戸建てはまだまだ浸透していない。今のところ再配達料を課している運送業界はないですが、このままでは追加料金の導入も避けられなくなると思います」(三井さん)
三井氏が言うように、再配達率は2025年10月時点で約8.3%まで下がってきたものの、政府が掲げた「2024年度に6%」という目標には届いていない。業界大手のヤマト運輸は、2025年10月に送料を3.5%値上げしており、今後の人手不足や燃料費の高騰を考えれば値上げトレンドはしばらく続きそうだ。
この袋小路を抜ける現実的な一手として注目されているのが、宅配ボックスだ。前出の三井氏はこう語る。
「十分な容量の宅配ボックスが置かれているマンションと、宅配ボックスすら置かれていない戸建てへの配送とでは、1軒の配達にかかる時間が5倍くらい違ってきます。運送業界2024年問題が起こり、政府はドライバーの労働時間を制限しましたが、本当に今の人員で日本の物流を回すには仕組みから変えないと無理だと思う。住宅地の外れにある戸建てに一日何度も再配達させられる今の状態では、若い人はもちろん僕らもきついです」(三井さん)
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補助金の投入などの施策もあって、戸建てにも宅配ボックスが浸透しつつあるが、「使えない宅配ボックス」が多すぎるという
そのような状況をふまえて、マンションはもちろん、戸建てでも最近の建売住宅では宅配ボックスを設置する事例が増えてきてはいるという。
「宅配ボックスの設置率は、戸建ては新築だと38.1%、中古でも18%ほど。少しずつ増えている現状はあります。横浜市や鹿児島市、近江八幡市など、全国31の自治体では補助金も出しており、行政による設置支援も今後本格化するでしょう。
インターホンの音に気づきにくいご高齢の方でも、安全に使えるように設計しました。離れて暮らす親御さんの防犯対策にと、子世代が買って設置するケースも増えています」
そう語るのは、宅配ボックスメーカー「Extage」社の氏家聡介氏。例えば横浜市では購入金額の半分、上限5000円を条件に費用を負担する仕組みがある。
ただし、設置さえすれば物流問題の解決に至るかといえば、必ずしもそうではないようだ。
「戸建て用の宅配ボックスはサイズが十分でないものも多く、『置いてはあるけど郵便物が入らない』なんて本末転倒な状態のケースもあります。配達の現場では、120サイズといって三辺の合計が120センチのものが主流ですから、これらをしっかり収納できるものでないと意味がありません」(氏家氏)
現場の配送ドライバーが感じている現実は、よりシビアだ。前出の三井さんが語る。
「よくある郵便ポストと一体になってるタイプは、本当に意味がない。少年ジャンプ1冊、2冊くらいしか入りません。ユニクロの衣類や水のケースが入らないなら、置いてる意味がない。"使えない宅配ボックス問題"を早く解決してほしいです」(三井さん)
再配達が減れば、配送コストの上昇に歯止めがかかる。それは巡り巡って、消費者が払う送料の高騰を抑えることにもつながる。玄関先の小さな空白を埋められるかどうか。――それは私たちが払う送料、ひいては日本の物流そのものの行く末を静かに左右している。
文/新田勝太郎 写真/photo-ac.com

