2026年F1日本GP マックス・フェルスタッペン(レッドブル) ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、4度のF1王者マックス・フェルスタッペンが29歳の若さにして今季末で引退する可能性について考察した。
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「結局のところ、自分が楽しめることをやるべきだ」とマックス・フェルスタッペンは言う。彼にはもともと、F1で長く走ろうという気持ちはない。フェルナンド・アロンソは44歳、ルイス・ハミルトンは41歳でいまだ現役だが、彼らほどF1で長いキャリアを築くことは考えていないのだ。
現在28歳のフェルスタッペンは、2026年限りでF1から離れることすら検討しているといわれる。今季から導入されたF1新世代マシンを嫌っているためであり、彼は「2026年のF1を見て楽しめる人は、本当のレーシングを理解していない」とまで言っている。
当初から内燃機関とバッテリーの出力比率がおよそ50対50となるマシンに嫌悪感を抱いていたフェルスタッペンだが、レッドブルの2026年型マシンRB22が序盤戦で競争力を欠いていたことで、その気持ちがさらに強まった。マイアミで投入されたアップデートによりRB22は大きく改善したものの、それでも現行レギュレーションに対する彼の考えは変わっていない。昨年父親になったことも、2027年のF1グリッドに並ばないという決断をする可能性を高めるかもしれない。
■契約の条件と環境の変化
では、フェルスタッペンが今季限りで引退することは実際に可能なのか。
彼は2028年末までレッドブルとの契約下にある。しかしどんなF1契約にも、競争力に関する条件、いわゆるパフォーマンス条項が付随している。フェルスタッペンの場合、昨年はサマーブレイクまでにトップ3に入っていなければ契約解除が可能だった。そして今年の条件は、サマーブレイク時点で選手権2位以内に入っていなければチームから離脱できるという内容だとうわさされている。これが真実だとすれば、フェルスタッペンが契約を解除できる条件が整う可能性が高い。
フェルスタッペンの決断に大きく影響するのは、レッドブルとの関係だろう。彼はF1キャリアのすべてをレッドブル系のチームで過ごしており、レッドブルへの忠誠を繰り返し強調してきた。
しかし忠誠の対象は、個々の人々のなかにある。そして、彼を4度の世界王者および71勝へと導いたレッドブルの多くの人物は、すでにチームを去っている。
ここ数年でレッドブルを去った人物のリストは長い。経営陣では、チーム代表クリスチャン・ホーナー、テクニカルディレクターのエイドリアン・ニューウェイ、チーフアドバイザーのヘルムート・マルコ、スポーティングディレクターのジョナサン・ウィートリー、チーフストラテジストのウィル・コートニー、チーフデザイナーのロブ・マーシャル、そしてフェルスタッペンの長年のチーフメカニックであるリー・スティーブンソンが離脱した。
上層部以外の組織でも多くの変化があった。2005年のチーム創設以来レッドブルに在籍している現職員は、フロントエンドメカニックのオーレ・シャックただ一人である。デンマーク出身の彼は、近年フェルスタッペンと密接に働いてきたが、すでに辞意を示している。後任の確保と育成の時間をチームに与えるため、彼は11月中旬のブラジルGPまでチームに残る予定だ。
フェルスタッペンが忠誠心を感じていた人々の大半はすでに去った。それはレッドブルとの契約打ち切りという決断をより容易にする要因となる。
■移籍ではなく引退
フェルスタッペンは、レースそのものへの興味を失ったのではなく、F1の現行レギュレーションを嫌っているだけだ。しかし現在のF1が気に入らないのであれば、レッドブルから他チームに移籍するのではなく、F1から去る決断をするのではないだろうか。
彼はすでにGTの活動を始めており、F1がない5月16〜17日にニュルブルクリンク24時間レースに出場する。目標リストにはル・マン24時間レースも含まれていて、父ヨスと同じマシンで走る可能性もある。
もしフェルスタッペンが今季限りでF1を去れば、レッドブルは深刻な問題に直面する。経営陣の混乱を経た現在、フェルスタッペンはチーム最大(あるいは唯一)の戦力である。レッドブルには他に、アイザック・ハジャー、リアム・ローソン、アービッド・リンドブラッド、角田裕毅といったドライバーがいるが、いずれもグランプリ優勝経験はなく、フェルスタッペンに並ぶ才能や経験は備えていない。また、衰退傾向にあると見られるチームにトップドライバーは興味を示さないため、新たな優勝経験者を獲得できる見込みも低いだろう。
世界最強と認められるドライバーがいなくなれば、F1にも影響は出るだろう。しかし歴史が示す通り、このスポーツはすぐに前へ進む。ジム・クラークやアイルトン・セナは、それぞれ世界最高のドライバーと広く認識されていた1968年と1994年に亡くなったが、その死によってF1が衰退することはなかった。
つまり、いかなる個人もF1より大きな存在ではないのだ。
■史上最年少で引退する世界王者に?
もしフェルスタッペンが29歳になる今年、F1を引退すれば、史上最年少で引退した世界王者となる。1979年王者ジョディ・シェクターは1980年に30歳で引退し、ニコ・ロズベルグは2016年のタイトル獲得直後、31歳で引退した。
しかし29歳のフェルスタッペンは、すでにF1で12年を過ごし、今季末で255戦を経験する。シェクターとロズベルグはそれぞれ113戦と206戦だった。
これだけ多くのレースを経ていれば、精神的疲労から解放されたいという思いもあるかもしれない。フェルスタッペンは、2015年のF1デビュー以前から大きなプレッシャーを背負ってきた。父ヨスは、マックスが幼いころから、大きな野心を抱いて、息子を育成してきたのだ。
フェルスタッペンは、人生には楽しみが必要だと語っている。最近では「今の状況では、まったく楽しくない」とすら述べており、2027年に世界最高のドライバーがF1で走っていなくてもおかしくはない、という印象を受ける。
【参考:電撃引退した世界王者たち】
■ジェームス・ハント
ジェームス・ハントは1976年に世界王者となり、1977年もタイトル争いの中心にいた。1978年にマクラーレンで苦戦した後、ウルフに移籍したが、1979年春の数戦で競争力不足が明らかとなり、モナコGP後に引退を決意した。
「僕がF1にいる唯一の理由は勝てるからだ。勝てないなら興味はない。6位のために走るにはリスクが大きすぎる」と彼は言った。
■ニキ・ラウダ
ニキ・ラウダは1976年にハントとタイトル争いを演じ、1977年にフェラーリで王座を獲得。その後ブラバムへ移籍したが、1979年カナダGPのプラクティス中に突然ピットへ戻り、マシンを降りてチーム代表バーニー・エクレストンに即時引退を告げた。
「ただ周回を重ねることに疲れたと気づいた」
彼は1982年にマクラーレンで復帰し、1984年に再び王座を獲得、1985年シーズン後に完全引退した。
■ニコ・ロズベルグ
ニコ・ロズベルグは2016年、メルセデスのチームメイトであるルイス・ハミルトンとの激しい戦いを制して世界王者となった。そしてタイトル獲得からわずか数日後、2017年に向けた好条件の契約を手にしながら引退を発表した。
「25年間レースをしている間、僕の夢はただ一つ、F1世界王者になることだった。その山を登り切り、頂上に立った今、この決断が正しいと感じている」
[オートスポーツweb 2026年05月15日]